虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
古代交渉 その11
次に向かうのは南東の区画。
……西に居たのに南西ではなく、わざわざこちらへ来たのには理由がある。
「それはまた、別の時に。今回の区画は、湿地帯……湖とは言わずとも、それなりに豊富な水源が用意されています」
水の味は……うん、腹を下しそうだ。
古代人は耐性があるかもしれないが、現代人な俺では生水で速攻ダウン間違いなし。
当然、『SEBAS』に訊けばすぐ分かるだろうが、水を飲みたいなら魔道具を使えばいいのでわざわざ訊く必要がないだろう。
「ちなみにここ、だいぶデカい虫なんかも出ています……例のアレもいるらしいが、視界に入る前に処理してもらっています」
《お任せください、旦那様。この世界は旦那様のもの。現実では不可能に近くとも、世界そのものを操れるここであれば、原初から葬り去ることが可能です》
「ああ、期待している……夢でもいい、アレの居ない世界を創ろうじゃないか」
すでに再出現しないように設定してあるので、自然交配以外で奴らは増えない。
それこそが一番厄介なのだが……逆に言えば、殺してしまえば二度と出現しないのだ。
嗚呼、これを全世界の人々に教えたい。
移民も増えるかもしれない──この世界にはアレが居ない、それだけで寒冷地帯に住んでいない人々の大半が釣れるはずだ。
「……と、ここまで虫の話をしているが、それはまた別の機会に。具体的には、南西区画の時ぐらいに。今はそうではなく、別の恐竜さんと接触です」
水源は場所ごとに沼地や湿原など、多様な環境として配置されている。
中でも広い湾処と呼ばれる場所に、この区域を統べるボスが君臨していた。
アヒルを巨大化させ、足を伸ばしたようなフォルムをした不思議な恐竜。
こいつもまた、ヘノプスの知らない新たな知性を宿す恐竜型の魔物だ。
「失礼、ハルシュカラプトルさんで合っているでしょうか?」
『そーだけど……誰?』
「私はツクル、人族に連なる者です。今回は人族と皆さま方との間により良い関係を構築するための場を設けたく、交渉をしたく参りました」
『ふーん……』
水の上でぷかぷかと漂いながら、ハルシュカラプトルは俺の話を聞く。
まあ、前回のサウロポセイドンに比べればマシな対応だろう。
「──ということでして。少し前にあった魔物の反乱によって、勢力図にも大きな影響が出ております。すでに一か所を除き、すべての皆さまの参加を確認しております……いかがなされますか?」
『いーよ。ただー、おいしー物を出してくれなきゃやーだからねー』
「ええ、畏まりました。では、どういった物が好みなのかをお聞きしておきましょう。人族と皆さまとでは食生活が違いますので、予め知っておきたいのです」
『うーん、そーだねー……』
恐竜が食べる物を恐竜に聞く。
マニアが聞けば垂涎物かもしれない……単純に、揉めたら厄介になるからだけど。
そんなこんなで、残るはあと一区画。
もっとも行きたくない場所──南西の荒野に行くしかないのか。
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