虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

古代交渉 その06



「『闘仙』──『地裂脚』」

 定番の再現動作によって、踏み込んだ脚は大地を割って道を切り拓く。
 仙丹を魔道具で練り上げ、虚弱スペックな肉体に流し込んでいるので……当然死ぬ。

「それでも──『天閃腕』」

 腕を横に薙ぎ、空間を裂く波を飛ばす。
 ここまではいつも通り……だが、この後は少しばかり違う。

「モードチェンジ──【仙王】」

 特に意味はないが、ノリで告げた宣言。
 武闘派の人のデータであれば、結界がその動きを再現するが……【仙王】の場合は、動きではなく仙丹の動きを再現する。

 具体的には生成効率が向上するのだ。
 結界は最低限身を守る以上の性能となり、それ以外のすべてでエネルギーを補給する。

「幸い、ここは自然が豊富な場所だからな。お陰でやりたい放題だ──『飛転』」

『消えるか……厄介な能力を持っている』

「ああ、俺の能力じゃないけどな。それでも便利なんだ──『華焔』、『掃風』」

『この地で使うとはな!』

 火と風、それは森の中で決して組み合わせてはいけない最悪のコンボ。
 発火と酸素供給、それら二つがもたらすのは──当然、大火災である。

 そんな未来を察知したであろう、この地のボスであるヴェロキラプトル。
 俺は『SEBAS』の指示を受け、その行動を急停止した。

 当然、火と風は俺の手の中で燻ったまま。
 やや怯える魔物たちを一瞥したのち、それらを解除して安心させる。

「──とまあ、こんな感じだ。どうする? まだ必死の抵抗をするのか?」

『! 未来が……変わった?』

「やっぱり、未来が視えるんだな。けど、それは完璧な物じゃない。人は個人で動いているわけじゃなくて、集団で動いている。それはお前だって分かっているだろう?」

 指定した対象の未来を見ることができる。
 それが『SEBAS』の予測した、ヴェロキラプトルの能力だった。

 弱点は第三者の介入。
 未来はその対象が選んだものなのだが、あくまで個人で決定したことしか映らない。

 誰かが隣に居て、未来予知の能力に気づいて行動の変更を要求すると書き換わる。
 俺の場合、一人に見えても『SEBAS』がサポートしているから問題ないわけだ。

「無駄だ。これから俺が何をしようとしているのか、お前には視えている……無駄な争いはやめて、和平交渉に移らないか?」

『……その未来が本当に実現できるかなど、証明できないだろう』

「してやるよ。だからこそ、俺に力を寄越してくれ。底が見えない……いや、見えても分からない俺なら、誰もが望む世界を作り出すことができる!」

 少しして、会談には参加するという旨が伝えられる。
 ついでに他の知性を持った魔物の情報を聞いて、俺はこの場を去るのだった。


コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品