虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
古代交渉 その05
「初めまし──」
『やれ』
互いに交わした挨拶。
ただ、それぞれ言葉を向けたのは異なる対象……俺は当然、目の前の恐竜。
しかし、恐竜は──周囲の配下へ向けて、攻撃の開始を告げた。
「うわー、いきなりピンチだよ」
《結界を再構築。外部からは黒い霧に包まれているように設定します》
「ああ、うん。それが必要なら頼む」
なぜなら、俺には影響が無いので。
マジックミラーのようなもので、視覚に悪影響がない黒い霧。
それを張り巡らせた球体型の結界により、恐竜型の魔物たちが行った一斉攻撃すべてを無効化することに成功する。
「やれやれ、いきなりずいぶんなご挨拶をしてくれたものだ。けどまあ、この世界の主として一度目は寛大な許しを与えよう」
『やはり死なないか』
「俺の名は──」
『ならば、落とせ』
今度は地面に穴が生まれ、ヒュッと体が浮く感覚を覚えるとそのまま下へ下へと落ちていってしまう。
「今回は智将だな……『SEBAS』、元の場所へ」
《仰せのままに──転移装置を起動します》
言われるがままに穴へ落ち、そのまま再び地上へ帰還する。
鞘に仕込んだ空間転移システムは、正常に作動してくれた。
『これでも死なないか。ならば──』
「なぜ、俺は殺されるんだ?」
『貴様が死ねばこの地は再び、かつての姿を取り戻すだろう』
「なるほど……さっぱり分からんな」
俺は分からないが、『SEBAS』ならば理解してくれる。
判明したその理由を、『SEBAS』はすぐさま俺に教えてくれた。
「けど、つまりは他への侵攻か。最近は北の方で人族が盛り上がっているからな」
『サルのことなどどうでもいい。我らが倒すべきは、湖の守護獣のみ。主である貴様が死ねば、多少なりとも変化が起きるだろう』
まあ、ヘノプスは俺がこの世界の主になる前から優秀だったので、実際にはそんなことない……たぶん、それはコイツも理解しているだろう。
目の前の恐竜──ヴェロキラプトルが進化した魔物に対して、俺は毅然とした態度で交渉を進める。
「俺はツクル、この世界の主だ。お前には、これから行われる人族との共存について話す場に参加してもらう。文句はあるか?」
『大ありだ。貴様が死ねばどうなる?』
「そうだな……特に何も変わらないな。なぜなら、お前の言った通りかつて、ここに俺はいなかったんだからな」
『……殺れ』
再び告げられた合図を受けて、魔物たちは俺を殺すために攻めてきた。
どうしてこうも、恐竜たちは俺を殺す気が満々なんだろうか……仕方ない、倒すか。
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