虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

古代交渉 その04



 ティラノサウルスには後日連絡する旨を伝えて、俺は次の場所へ向かう。
 この世界の守護獣たるヘノプスの命とあって、いちおう当時の強者は集まっていた。

 ……しかしながら、それも過去の話。
 この世界に神練が訪れ、パワーバランスが根本から変わってしまった。

「というわけで、次は北東の森林区画です。それじゃあ、さっそく行きましょう」

 古代世界はあくまで、人間の適応能力を調べるために生み出されたもの。
 なので、時代背景を完璧に写し取っているわけではない。

 現在、白亜紀・ジュラ紀・そして三畳紀の生物に類似した魔物が確認できている。 
 しかしそれ以外の時代の生物っぽいヤツも確認できているので、割と緩いのだろう。

「だから……まあ、いろいろと居るんだよ。正直、過去に存在したって意味なら割と豊富に。本当の意味で天然記念物だよな」

 恐竜たちが蔓延る森の中、最弱にして最高のお肉である俺はただ目的地を目指す。
 ティラノサウルスと違い、ここの主は一つの場所から動かないらしい。

 なので接触するため、わざわざそこへ向かわねばならないのだ。

「さてさて、さっきはティラノサウルスが直接出向いてくれたからこそ、無駄な闘いをしなくても済んだのに……今回はずいぶんと、邪魔者が多いんだな」

 現れたのは、大量の魔物たち。
 統一された種族ではなく、それはなぜか肉食草食問わずの恐竜軍団である。

 言語を介さないやり取りをするその魔物たちは、唸り声を上げながら果敢にこちらへ攻撃を仕掛けてきた。

「……嫌な予感がする。『SEBAS』、最低火力で普段使わない方法を」

《畏まりました──昏睡ガスを噴射します》

 どこからともなく噴き出すガス……まあ、俺の足元からだけど。
 すべての装備に仕込んである、空間魔法からガスを取り出しただけだ。

「あー、たしかに使わないよな……俺も、眠くなるし──すぐ覚めるけど」

《結界を構築し、遮断します》

 ガスを吸い込み、昏睡状態になるのは俺も同じ……しかし、その後に仕掛けがある。
 俺の意識が無くなったことを感知すると、機械が自動的にポーションを掛けるのだ。

 当然、レベルは6……ただの風邪も神の呪いでも、同じ扱いとして治してしまう。

「さて……魔物は全部寝たみたいだな。ここで睡眠に対する耐性を持っている魔物とかがいたら、ちょっと興味があったんだが」

《その要因がこの世界にはございません。魔法を使えるようになった古代人は、生きるためにそれを用いています。恐竜もまた同様であり、搦手に属する魔法は必要とされておりませんので》

 なかなかに世知辛い理由だ……まあ、植物にはそういう成分を含んだ物もあるので、探せばいるかもしれないけどな。

 ──そろそろ本番、この地を統べるボスの下へ行きましょうか。


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