虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

古代交渉 その02



『統べる者……その言葉に嘘偽りは無いだろうな?』

「ああ、もちろん」

『ほぉ……ならば、その力をさっそく試させてもらお──ッ!?』

「『神狼捕鎖レージング』。ああもう、あんまり強くはないんだ……ただ、絶対に死なない。約束を果たせず死なないよりはマシだろう?」

 会話の最中、突如として襲い掛かってきたティラノサウルス。
 なので俺も体を縛り付け、強引に話をさせてもらうことにする。

「いいか、お前にはまず二つの選択肢が与えられている。俺に絶対的服従を誓ったうえ、人族と交渉する。それか話を受け入れ、そのうえで交渉をするか……どっちがいい?」

『グゥ……道具頼りの分際で』

「俺は人族の極致に居るんだ。どこまでも死に怯え、それゆえにあらゆる手段を許容して生き延びる。さて、どちらか早く選んでもらいたいんだがな」

『……力を魅せろ。オレが黙って人の言うことを聞くことはない』

 鎖はミシミシと軋んでいるが、それでも壊れることはない。
 獣人の国アニストの国宝……の複製品は、暴れる程度では壊れないのだ。

「ならば、二本目──『神狼縛鎖ドローミ』」

『クソッ、なぜ外れない!』

「諦めるなら外してやるが?」

『ふざけるなよ……オレはこの地を統べる王である。貴様のような雑魚に、今さら我が物顔をされて黙っていられるか!』

 まあ、実際雑魚だから否定はしないけど。
 神狼すら縛れる鎖二つを受け、それでもなお耐えているのは賞賛に値する偉業だし。

 このまま放置したり、縛り付けたまま攻撃しても勝利できる。
 しかし、信用や信頼を勝ち得ることが難しいだろうので……拘束を解除する。

『……なんのつもりだ?』

「一撃だ。一撃で済ませやるから、そっちも何かやれ。それでお前は満足しろ」

『このっ……いや、それが貴様なりの全力ということか。いいだろう、その一撃で貴様を見極めてやろうじゃないか!』

「はいはい、それでいいからな」

 時間が無いわけではないが、こういう輩はガツンと一発やった方がいいのである。
 相手が全身にエネルギーを巡らせる中、俺もアイテムを一つ用意した。

「──巨槌[星砕き]」

『“絶爪”、“断牙”!』

 準備は整った。
 互いに持ち得る強力な一撃を以って、相対する敵を捻じ伏せる。

 俺は重力を操って強引に振るう巨大なハンマー、ティラノサウルスは空間属性を宿した防御を無効化する爪と牙による攻撃。

 結界を足場に頭上に登り詰め、そこから飛び降りて槌を振り下ろす。
 ティラノサウルスはそれを待ち受け、構えたそれらでトドメを刺そうとする……が。

「──言っただろう? 俺は死を恐れているからな……死にたくない、そして死なない」

『グォオ……』

「沈め、お前の負けだ」

 俺の体は空間すらも裂く一撃を透過。
 そして、ハンマーはそんな現象を起こすこともなくティラノサウルスに命中……頭から地面に減り込むのだった。


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