虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

古代交渉 その01



「というわけで、協力してもらうぞ」

 古代人と知性を宿す魔物との仲介役。
 それを行えるこの箱庭世界の守護獣の下を訪れ、話を伝える。

『お任せください、マスター。ですが、一つ問題があります』

「問題?」

『神々の試練を経て、変化した状況を把握できていないのです。つまりは……』

「現在、どの個体が言語を介するレベルで知性を持っているか分からないってことか」

 守護獣ヘノプスはそう俺に言った。
 人がレベルを上げるように、魔物もまたレベルを上げることができる。

 そうして知性を得る魔物がおり、それらをヘノプスは確認できない。
 守護獣とは任された領域を守護する魔物の総称であり、魔物の守護者ではないのだ。

 それはどちらかというと、【救星者】のように全体を把握している職業の保持者の役割なんだよな……先に言っておくと、俺にそういった能力は与えられていません。

「……けど、全滅したわけじゃないだろう。ヘノプス、過去の分だけでいいからとりあえず情報をくれ」

『仰せの通りに』

 把握していたのは、ちょうど俺がこの箱庭世界を初めて訪れたほんの数日前。
 五指に収まる数だったので、ドローンを飛ばしてもらえばすぐに見つかるだろう。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 箱庭世界 東区画

 改めてこの世界を説明するなら、ちょうど正方形を九等分したものと言えよう。
 一区画ごとに環境が異なっており、それぞれ異なる魔物が生息している。

 俺は中央区画に住居を構えているし、北区の高山地帯に古代人、ヘノプスが箱庭世界と冒険世界を繋ぐ道を守るのが南地区だ。

「そして東地区はやや広い平原が広がっている。ここの王者は肉食の凄い奴なので、まだ生きているだろう」

 前回の神練は中央地区から北地区へ大量の魔物が溢れてきたので、それ以外の地区への影響はそこまで無かったはずだ。

 ヘノプスの方にも魔物が行ったという話は聞かなかったので、それは間違いない。
 問題は生きているかどうか、そこだけなのだ……うん、死亡レーダーがビンビンだ。

「代表も言ってたっけ、所々に厄介な魔物が居るから気をつけろって。つまり、それがコイツってわけか……」

『何者だ、その気配……面妖な』

 ティラノサウルス、子供たちでも分かる有名な恐竜がこの地に現れた。
 唸り声に魔力が宿り、意思疎通も可能にしている……間違いない、目的の相手だ。

「お初にお目にかかります。私の名は──」

『騙るのはやめろ。さもなくば、貴様をすぐにでも噛み千切ってやろう』

「……俺の名はツクル。この世界を統べる者として、ある提案をしに来た」

 統べる者、その単語に反応してくれた。
 予想通りだな……曰く、コイツは強くあることを望んでいるそうだからな。


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