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虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

機械販売交渉 前篇



「はい、というわけで本日紹介する商品はこちら! 使い手と共に成長し、いずれはとんでもないものになりそうな──」

「却下!」

「……おや、ダメでしたか?」

 機星龍メカドラを付随枠に収めた翌日、さっそくその廉価版を販売しようと生産ギルドに来た。
 いつものように納品を済ませ、ギルド長に直接交渉を……したのだけれど。

 取扱説明書を読んでもらっていたら、大きくため息を吐いてから例の一言。
 毎度のことながら、またご迷惑をお掛けしてしまうようで。

「何が問題だったのでしょうか?」

「表向きの理由と裏の理由があるけど……君はどちらから聞きたい?」

「では、表から」

「個人で魔石を消費されると、魔道具などに使えなくなるからね。冒険ギルドや迷宮ギルドからクレームが来そうだよ」

 魔物を殺すことで得られる魔石。
 採掘だったり錬金だったり、それ以外にも方法はあるのだが……一番手っ取り早いのが魔物を殺すこととされている。

 そのため、それを仕事としている二つのギルドからすれば収入を得る手段が減ってしまうということなのだろう……大人の事情ってのは、どの世界でも共通で存在するな。

「なんだかそれだけでも、裏の話だと思ってしまいますね……では、本当の裏の話に関する情報をお願いします」

「うん、ちゃんと聞いて。きっと君の売ろうとしているそれ、犯罪にも使われるよね? それを未然に防ぐ必要があるんだ」

「道具そのものに罪は無いという考え、こちらにもございますか?」

「起きてからじゃ遅いんだよ。この説明書を読むだけでも、凄さは分かる。未踏破領域を攻略するために使うなら、間違いなくこれは役立つ……けど、それと同じくらい、危うい道具でもあるじゃないか」

 廉価版とはいえ、ショウの仲間たちの手に渡るかもしれないと考えられる。
 そのため、魔石でしか成長できないことを除けば機星龍とほぼ同じシステムだった。

 つまり、魔石を注ぎさえすれば誰でも最強になれるというわけだ。
 もう少しセーフティを強めた方がいいだろうか? そう考えていると──

「たとえ君がこれに制限を設けても、たぶん最悪の事態は必ず訪れると思う。そうなることを防ぐためなら……ぼくはこれを、世に出さない方がいいと思う」

「そうですか……分かりました」

「よかった、理解してくれたんだ──」

 ほっとするギルド長。
 そう、『SEBAS』もその可能性は危惧していたから……ちゃんと次の案を用意してあるよな。

「ではもう一回りスケールダウンさせた、こちらの商品にしましょう。魔石内の情報を用いて、能力をカスタマイズできるようにしてあります」

「……え゛っ?」

 それから交渉に交渉を重ね、最終的に認めてもらうことに。
 だいぶ劣化したものの、すべては世のため人のためということで。


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