虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

万戯華境 その10



「スカイ……」
「レープ……」

「「うん、決まり!」」

 互いに何かを決断したようで、これまで以上にギッと強くこちらを睨んできた。
 そして、片割れを見る瞳は信頼しあい、それぞれ顔を見合わせて攻撃を仕掛けてくる。

 だが、俺を倒すには『侵略者』たちによって強化された『腐肉死龍ゾンビドラゴン』を討伐しなければならない。

 けたたましく咆えると、双子に向けて勢いよく飛んでいく。

「スカイ! ──“身命祈願サクリファイスウィッシュ”!」
「レープ! ──『分身』!」

 レープの命を捧げることで叶ったのは、何千何万とも思える数の花びら。
 そして、それをスカイの変化の力で存在ごと書き換えて──自分たちの分身を作る。

 命を対価にほぼすべての願いを叶えているようだが、あの魔法は蘇生や即死などの命に関する魔法は叶えられない。

 生命の創造もまた同じこと。
 なので一度そうじゃない存在を用意したうえで、そのような規制のない『万化』の権能によって分身を作り上げたのだろう。

「ですが、それでは止められませんよ」

 侵略者にとって、現れた分身たちはただの餌でしかない。
 囮役にはなっているようだが、次々と喰われて侵略者の生命力を補っている。

「ところがどっこい、スカイ」
「うん──『変化・聖具』!」

 彼女たちがそう告げると、ドラゴンに異変が起きる。
 内部が突如膨れ上がったと思いきや、大量の武器が飛び出してきたのだ。

 それら一本一本が聖なる力を放っており、死んでいるドラゴンには絶大なダメージ。
 なるほど、あえて食わせることで仕込んでいたものが作動したということだな。

「どんなもんだ、オジさん!」
「これで終わりだよ、オジさん!」

「ええ、素晴らしい。あなた方はドラゴンを倒しました……ええ、実によかったです」

 物語であれば、このあと俺は敗北する流れになるだろう。
 喧嘩をやめ、再び力を合わせて戦った姉妹が俺の攻撃をすべて無効化する……とかな。

 しかし、事実は小説よりも奇なり。
 そもそもの前提を間違っている以上、物語のような奇麗な終わり方はできない。

「私はこのような敵、と言いました。そして何より『腐肉死龍の完全遺骸』と言いましたよ? もともと死んでいるもの、つまり人形から糸を切ったとしても、それを使っていた真なる敵は倒せませんよ?」

「「──ッ!?」」

 むしろ、あの攻撃は悪手だった。
 なぜなら、大量に飛び出した武器や飛び散る死肉に、侵略者たちが付着して至るところへ拡散されてしまったのだから。

「……とはいえ、ここで終わりにしましょうか。お二方、私の話をきちんと聞くと誓ってくれますか?」

「「聞くよ、ちゃんと聞くから!」」

「はい、正解です──やれ」

《仰せのままに、旦那様──対侵略者用ワクチン散布》

 俺だって、この世界を侵し尽くさせるために侵略者を用意したわけじゃない。
 あれから研究に研究を重ねて、瞬時に絶命させる方法を見つけ出していた。

 二人もとりあえず負けを認めてくれているみたいだし、今回はこれにて終了。
 ……権能もコピーできたうえ、いろいろと見させてもらったので俺は満足です。


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