虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
万戯華境 その05
「──えっと、つまり?」
「双子様の姉妹喧嘩はいつものことさ。ただし、今回はちぃとばかり厄介でね。いろんなことをやって勝敗を決めるみたいなんだ」
「迷宮に向かわれたのも、それが理由と?」
「そういうこった。近づいちゃいけねぇよ。双子様が本気を出せば、辺り一帯が摩訶不思議な光景になるからよ」
姉妹喧嘩……ファンタジーな世界らしからぬ、ずいぶんと聞き慣れた理由だった。
大層仲の良い姉妹が、ある日突然揉め出したのがすべての始まりだったんだとか。
その結果、これまでは安全だった環境にも変化が生じ始めた。
今回俺が潜り込んだ台風も、その一種として考えられている。
……他にも情報はあったが、とりあえず粗方収集できた。
「ありがとうございます。あっ、ついでにこの素材も買っていきますね」
「毎度! 兄ちゃんも気を付けてな、最近は外に出ると何が起きるか分からないぞ」
「ええ、理解しています」
さすが、さまざまな大陸から人や物を攫っているだけはある。
まだ見たことのなかった魔物の素材が豊富で、ついつい爆買いしてしまった。
それらを迷宮が取り込めば、[召喚]が可能になるので帰るのが今から楽しみである。
◆ □ ◆ □ ◆
■■の■
俺はさっそく迷宮を訪れた。
核に触れればシステムをコピーできるし、ここに『千変』と『万化』が居るのだから調べるしかない。
そう思ってきたのだが……[マップ]がまず、正常に機能していない。
それを入り口で理解したうえで、内部でもさらに実感した。
「……なんだよ、これ」
その光景を、一言で纏めるのであれば──混沌だ。
元の姿が分からないので、これが正常……と絶対に思えないような空間ができている。
たとえば、昼と夜が同時に存在していた。
魔物たちは空を歩いているし、地面は引き剥がされて輪っかになり転がっている。
風は吹き荒れるが暖かかったり冷たかったり、水は流れているけど流れる向きが逆だったりと……もう、わけが分からない。
《これは『千変』の禁忌魔法、『万化』の存在変化が迷宮そのものを改変した結果でしょう。システムがエラーを起こし、名称にすら影響を及ぼしております》
「いちおうの倫理はあって、迷宮の中で喧嘩し始めた。けど、その被害が外まで漏れてこうなった……ってところか?」
《外部に内部の影響を漏らさない迷宮。しかしそれも、システムが正常に作動していればという話。ここまでの改変を行えばシステムも異常を起こします》
……どうしたらここまで被害を出せるようになるのか。
思えば俺は、『超越者』同士の諍いを見たことがない。
きっとこの光景こそが、そうなった場合の未来なのだろう。
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