虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

万戯華境 その04



 結界を光学迷彩で隠してから、そこに引き籠もって情報収集を始める。
 サングラスを掛けた俺の視界には、広大な世界が広がっていた。

「普通の世界みたいに見えるな……所々がこれまでで一番ファンタジーっぽいけど」

《あらゆる場所から現象を取り込んでいるからこそ、その歪さに整合性を感じているのかもしれません》

「かもしれないな。空飛ぶ島、球体の海、巡回する嵐……何より、巨大な国だし」

 ドローンが映し出す亜空間は、これまで冒険してきた中でもっとも『らしい』ファンタジー感に満ち溢れている。

 物理法則を出してしまえば、決して説明しきれない異なる理。
 子供の空想をそのまま現実にしたような、ありえないと一蹴されそうな光景だ。

「……だからこそだな。『千変』と『万化』は、自分たちの思うままにこの世界を……箱庭を作り出した。そこには、子供の夢想が込められていてもおかしくはない」

《亜空間の主は双子であり、彼らにはこの世界を思うがままに書き換えられる権限が与えられています。そして、多少の制限は権能を用いることで破壊可能です》

「命のストックを捧げ、理すらも変える権能か……というか、『千変万化』。つまり元の権能がどんなものか知りたくなってきたよ」

 調査をして分かったことだが、双子の権能は親譲りの権能が二つに分かれたものだ。
 そして、生まれた時点で権能が分裂して移譲された……うん、謎が多いな。

  ◆   □   ◆   □   ◆

「──ふぅ、空気は普通だな」

 この亜空間の法則を『SEBAS』が解析してしまえば、自由に活動できる。
 その身を完全に隠したうえで、人族が住まおう巨大な島に移動した。

 広がる街並み、中央に置かれた大きな城。
 そして、亜空間の内部だというのにさまざまな人種の者たちが生活をしている。

「他の場所に人族の反応は無いみたいだし、ここの調査をするだけでいいよな」

《はい。ですが、城の内部に強大な魔力反応はございません。おそらく、亜空間内で観測された迷宮ダンジョンに向かっているのかと》

「亜空間の中に亜空間って……」

 一種の別世界なため、死亡レーダーは反応してくれない。
 まあ、レーダーそのものはしっかりと機能してガンガン警鐘を鳴らしているけど。

「まずはここの住民に聞き込み調査だな。さすがに脱出のお手伝いはできないだろうが、原因ぐらいは聞けるだろう。人形の用意をしてくれるか?」

《畏まりました》

 どこからともなく精巧な人形たちが配置され、光の屈折や術式の効果で違和感なく人族として活動できる。

 さて、双子は何をやらかしたんだか。


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