虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
家族冒険 その11
最深部は千階と言ったので、もちろん今回だけで辿り着くことはできない。
が、一階層ごとにセーブポイントのような場所が有るので、再挑戦が可能だ。
「ショウ、大丈夫か!」
「まだまだ平気──“斬撃”!」
俺には無縁の武技を放ち、立ちはだかっていた魔物を斬るショウ。
その際に血が出る……はずだが、ショウは倫理設定が働きすべてがポリゴン状だ。
魔物もそのまま自動で処理されるし、武器に血が付くかどうかも確率の問題。
まあ、たとえ血が付いたとしても、ショウの星剣は自動で綺麗になるんだけれど。
「来た──“連鞭”!」
同じくマイも武技を発動させる。
ぶれるほど高速で腕を動かし、魔物たちに向けて鞭を振るっていく。
神獣の力で強化されているという鞭は、これまたすべての魔物を一撃で屠る。
……もちろん、倫理コードが働くため、自動的に処理されて[インベントリ]の中だ。
「ルリは……やるか?」
「いえ、せっかく二人が張り切って守ってくれるのですから、もう少し」
「そうだな……ルリは戦える力があるから、それを選べるのか」
「アナタ……」
俺にできることは死ぬことだけ。
または、死ぬことで結果を残すことのみ。
毎回毎回仇討ち同士討ち、子供には見せられない少々痛々しい死に方だ。
なので今回、俺は大人しく下がって戦闘を見ていることに。
罠なんかが有ったら俺が処理する予定なのだが、それもまだ出てこない。
……ここも言ってしまえば、家族全員がそれぞれ処理法を持っているんだけど。
「『SEBAS』に頼るのはなんか違うし、道具か仙術でサポートぐらいしかできないからな……ただ、それも地味」
なお、『SEBAS』が動かしていたセバヌスの器は一階層の時点で離れている。
代わりに、俺たちの脳内に頼れるAIの指示が届くようになっていた。
《でしたら旦那様、奥様に魔法を見せてもらうというのはどうでしょう?》
「私に?」
《そうです。旦那様にできることを、増やしてみるのです。職業や称号の補正が無いため劣ってしまいますが、旦那様の行動に幅ができることはお約束します》
「分かったわ、アナタのためですもの。一流の聖女に育て上げてみせるわ!」
俺は女ではないので、百歩譲っても聖人のはず……まあ、【聖人】は種族なのでなることは難しいんだけど。
──とにもかくにも、ルリの魔法を学べば何か掴めるものがあるかもしれない。
魔術と違って模倣することは難しいが、迷宮のドロップを操作してスクロールは手に入れることができる。
「……覚えておいて損は無いのか」
「アナタ?」
「いや、できることはなんでもやっておいた方がいいかなって──『SEBAS』、魔法のスクロールをありったけ頼む」
《仰せのままに》
読むことに条件など存在しない。
スクロールとはそういうもので、誰でも使えるからこそ一部の魔法が載ったものは危険指定されて世には出てこないのだ。
しかし、迷宮にそんな制限はない。
さすがに星の管理に使う分は手を出さないにしても、俺のお小遣い程度なら……魔法も購入できるってわけだ。
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