虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

家族冒険 その10



 そして数時間後、ようやく本題──冒険を始めることになった俺たち家族。
 向かうのは再び巨大な扉、そこを潜ることで冒険の舞台へ移動する。

 そこは青い空が広がる草原。
 スライムやドッグなど、比較的弱い魔物たちが生息している地だった。

「──こちらが『冒険の間』、一階層ごとに異なるフィールドとなる迷宮でございます」

 案内係のセバヌス──『SEBAS』が動かす人形──によると、魔物のレベルは階層に比例して強くなっていくらしい。

 この階層であれば出てくる魔物はすべてレベル1だし、次の階層なら必ず2。
 どんどん潜っていっても+1されるだけなので、帰るタイミングも決めやすい。

 ……裏を返せば、下だとどんな魔物が相手でも油断できないってことだけどな。

「それじゃあ、ポジションを決めようか。まずショウは前衛」

「任せて!」

「俺とマイが中衛で、ルリが後衛だ。マイ、従魔は初めの内は用意しないでくれ」

「うん、分かった」

 古き良きゲームだと、六人じゃなく四人でパーティーを組んでいる。
 EHOはデメリットを気にしなければ何人でもOKだが、やっぱり最初は家族でな。

 ……それに、ただでさえ四人中三人が尋常ではない力を有しているのだ。
 聖獣とか神獣とかそんなチート級の存在を呼ばれては、もう俺の価値が無くなる。

 今は家族で、ということだが……真面目にパーティーを作るというのであれば、雑魚を入れるよりは優秀な従魔を入れる方が合理的では無いだろうか?

  ◆   □   ◆   □   ◆

 そうして始まった冒険だが、当然最初の内はショウ独りですべて解決するぐらいあっさりとしたものである。

 参加者の平均レベルは428……これだとデカすぎるな、主に俺の999が。

 三人の平均は237、この迷宮は千階層まで造ってくれているらしいが、それでもかなりの間は無双回となってしまう。

「……ちょっと暇かも」

 律儀にすべて剣で倒しているものの、それらすべてが一撃で終わることに作業感を覚えつつあるショウ。

 すでに階層は30階層、それでもなおショウの無双を止めるものは現れない。

「千階層もあるし、本当はやりたくなかったが……仕方がない、家族で挑むときだけの特別ルールを用意しよう」

「「「特別ルール?」」」

「ああ、相手が弱すぎるなら……こっちも弱くなればいい──セバヌス」

 パチンと指を鳴らすと、俺の要求を即座に汲み取ったセバヌスによって迷宮のルールが一部書き換えられる。

 すると、家族は急に立ち眩みが起きたかのようにガクッと体を揺らす。

「今のでなんとなく分かったと思うが、能力値の方に制限が掛かった。階層分までしか、能力値を使うことはできない」

「うおっ、さっきより躱しづらくなった!」

「AGIも落ちたからな。さて、みんなで支援するぞ! ……あっ、支援にも制限が掛かるから注意しろよ」

 なんて縛りプレイを設けたりしながら、俺たちはアイプスル世界迷宮の最深部を目指していく……うん、名詞が長いな。


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