虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
休日開放戦 その06
脱出口は、アジトから少し離れた場所に用意されていた。
返しのような構造になっているため、本来は脱出口から潜入することはできない。
「──問題ありません、この程度であれば容易く通れますよ」
「い、いったいどうやって」
「こちらです──魔術“千変宝珠”」
あらゆる形に変えられる魔力の球を生みだして、それをうすーく伸ばしていく。
隠し通路は魔法で隠しているが、ほんの少しだけ隙間が存在している。
そこを通って反対側に球の一部が向かい、そちらで膨らんで──抉じ開けた。
「と、ご覧のように」
「……異常ですね、いろいろと」
「あまりそのような意識は無いのですが……そうなのかもしれませんね」
そういう目で見られているのには、相応の理由が存在するのが定番だ。
もともとチートを持っているのだ、否定する方が難しいだろう。
「続いて──魔術“孤絶ノ衣”、これで存在が認識されなくなるようになるでしょう」
「先ほどのポーションとの違いは?」
「制限時間でしょうか? あと、重複しますので効果が高まります」
「……やっぱり異常ですよ」
異常だと言われても、それ以上に異常な連中を知っているので実感は湧かない。
どうして彼らの力をさまざまな方法で模倣しているのに、誰一人として勝てないのか。
それは俺が普通の枠に留まっている存在であり、彼らがどこか異常だということだ。
故に考え方や力が常軌の域から外れ、強さというものを得ている。
そんな彼らに比べれば……俺なんて、まだまだ敵わないよな。
◆ □ ◆ □ ◆
脱出口を反対側から潜入しているので、最後の罠である返しさえ突破してしまえばあとは比較的簡単だ。
逃げる時に罠が作動し、自分たちが足止めされてしまえば元も子もないのだから。
おそらく脱出口の入り口、そしてその近辺にしか罠は設置されていないだろう。
「というわけで、しばらく私たちはここで待機しましょう。まだ逃げられると油断した彼らを捕縛、それがベストかと……ついでにここで集めた情報を報告するのもいいかもしれませんね」
「たしかに、相手はここに隠れているとは想定していないわけですし……普通は入れないのですから」
「自分たちにとっての奥の手、こんな風に利用されているとは思ってもいないでしょう。だからこそ、こちらもこのようにここで隠れられますね」
「……まずは騎士長様にご報告しなければ。作戦に関しても、それを決めてからです」
ルリ騎士団には連絡用の魔道具も与えられており、先ほども一度借りてこの脱出口の情報を伝えた。
今回は彼女に任せて、俺はアイテムのことでも考えておこう。
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