虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
休日開放戦 その05
俺と斥候騎士の二人組に求められる役割はなく、好き勝手に暴れて良い。
騎士長も、俺がある程度力を持っているのは理解しているからだ。
ただし、合図があるまではバレないようにしてほしいと言われていた。
……そんな俺たちの前に、突如現れた休人が一人。
「とりあえず、これを飲んでください」
「……禍々しいんですけど」
「飲むとしばらくの間、誰にも気づかれなくなります。存在が世界から消えますね……こちらの専用の魔道具を付けている人にのみ、姿を知覚してもらえます」
「怖ッ! ……けど、頂きます」
状況を理解しているので、すぐに液体を飲み下してくれた。
俺も試験管の蓋を外してそれを嚥下し、魔道具で斥候騎士の存在を確認する。
「……全然変わっていないように見えますけど、本当に大丈夫なんですか?」
「ええ、試してみましょうか?」
「あ、危ないですよ……って、あれ?」
さっそく現れた休人の前に立ってみるが、男は無反応……気づいていないからだ。
不可視……いや、不可知の存在となっているため、認識できない。
「ちなみに、姿以外にも声なんかも隠せていますけど、行動による結果……たとえば枝を折ったときの音なんかは防げません。その辺りは気を付けないといけませんね」
「それは……いつも心がけていますので、大丈夫だと思います」
「よかったです。では──こちらが完全版の地図ですね、裏口がこちらというのは判明していましたが、もう一つ……こちらにも。私たちはそちらから向かいましょう」
「……へっ?」
ドローンが調べ上げ、つい先ほど完成した地図を取りだして斥候騎士に見せる。
目に見える入口、仲間同士で使う裏口、そして……非常用の脱出口の三つ。
休人は地球人なので、そういう逃げ場所についてもバッチリ用意されていた。
洞窟型のアジトなのだが、穴を掘って用意していたようで普通は気づけない。
「あっ、罠もありますよ……もちろん、不確定ではありますが、騎士長さんにもご報告はしてあります」
「……まだ入ってもいないのに、そこまで分かるものなのですか?」
「そういう力がある、としか言えませんね。貴女がたの教祖様が、なんとなくと言ってすべてを解決してしまうように」
「……納得です」
ルリの幸運パワーの前には、どんな悪事も潰えてしまう。
この世界でもよくやらかしているのは、本人の口から聞いている。
「案内は任せてください。騎士長さんからの合図が来る前に、潜入は済ませておきます」
というわけで、脱出口へと向かう。
……やることは潜入なんだけどな。
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