虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

干渉否定 中篇



「それで、『生者』よ。私にまだ言いたいことがあるのではないか?」

「……特に無いが? もう交渉は済んだんだから、帰るだけだ」

「つれないことを言うでない。むしろ、もう少し何か言ってもいいんだぞ」

「うーん、職業に関することをいくつか訊きたいぐらいだな」

 レベルカンストによる情報開示は、たしかに分からなかった部分を視えるようにした。
 しかし、もともと人々が知り得る情報などはあんまり載っていなかったのだ。

 要するに──特殊な職業の存在などは知れても、普通の職業に就くための方法などは分からない。

 可能な限り“職業系統樹”で就ける職業の数を増やしたい俺としては、何でも知っていそうな万能な『騎士王』に、今こそ訊ねておきたかった。

「隷属系はもうやったからいいとして、それ以外に強制的な方法で就くことができる職業はあるか?」

「私の『騎士王』に【騎士】や【聖騎士】への舒明ができる能力があるように、最上位の職業には下位職業を与える能力を有している場合がある。すべてがそうというわけではないが、上下関係がある職業などでは……あるだろうな」

「……【暗殺王】、とかはどうだ?」

「それならば問題なかろう。【暗殺者】になりたいのか、『生者』は?」

 思い浮かんだ名前を言ってみたが、誤解されただろうか?
 たしかに就いてみたいとは思うが、俺のスペックでは運用することなど不可能だし。

「まっ、それはいいだろう。『騎士王』、教えてくれてありがとうな」

「礼には及ばん……が、どうしても礼を言いたいのであれば──」

「はいはい、分かっているさ。今回は……調味料にしようか」

「なんと、いつでもどこでも使いたい放題ではないか!」

 今回は無理難題を押し付けるのだ、渡す物も相応の物に……って、そもそも調味料で誤魔化される『騎士王』っていったい。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 とりあえず、『超越者』関連の厄介事に巻き込んでくるヤツは抑え込めた。
 これで俺に降りかかる問題の八割ぐらいは対処できたので、次へ移行する。

 俺がその足で訪れたのは、前に来たときよりも壮健さが増している神殿風の建物。

「……なんか、神々しいな」

 最近、神像やら神の血やらでやや感じ取れるようになった神の力──神威。
 それが渦巻いている神殿へ、一歩足を踏み入れる。

「ようこそ、アズル様を崇めし神殿へ。本日はどのような目的でいらっしゃったのでしょうか?」

「──これを」

 入ってきた俺をシスター服の少女が迎えてくれたので、ある品を見せる。
 それはアズル神──つまり、ルリを崇めるここで配られるロザリオだ。

 そして渡したのは、選ばれし者だけが与えられるという特殊なロザリオ。
 ……うん、アポを取るのだから、相応の身分であることを証明しなければならない。


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