虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

干渉否定 前篇



 アイプスル関連の改良はしばらく休み、やるべきことをするため冒険世界を訪れる。
 そして、いつもの焼き串屋の前で待っているであろう人物の下へ向かう。

「来たか、『生者』よ」

「……よく飽きないな、お前」

「ふっ、決まっているだろう。『生者』という存在が、この串焼き屋に新たな革命をもたらしている……否、こここそが新たな食文化の始まりの地とも言える! すべては店主と『生者』の探求心のお蔭だな!」

「はいはい、どうもどうも」

 目見麗しい『騎士王』にそう言われ、照れているのかいつもよりも一度に焼く串焼きの数が増えている気がする店主。

 誰も不幸にはならない、幸せな世界……とかそんな感じだろうか?
 少なくとも俺はその間に死んでいるので、本来なら不幸確定だ。

「ところで、『生者』。今度はいったい何の用だ? また何か、私に頼みたいことがあるならばすぐに言ってくれ」

「──しばらく関わらないでくれ。あと、俺に関わりのある厄介事をやってくれ」

「……それは、どういうことだろうか? 納得のいく説明を貰えるのだろうな?」

 スッと朗らかな笑みを消し去り、王としての冷酷な顔が表に出てくる。
 彼女なりに、この発言には違和感を覚えたのかもしれない。

「その顔はしなくていい、家族の問題だ。実はな、ようやく家族水入らずで過ごせる時間ができるんだ。だから、それが終わったら一つぐらい依頼を聞いてやってもいい」

「……そういうことか。うむ、ならばよいのではないか? 私も『生者』の家族に──」

「会わせないぞ。今回ばかりは絶対に譲らない、たとえ相手が『騎士王』であるお前だろうと……どんな手を使ってでも防ぐ」

「冗談だ。せっかくどんな依頼でも受けるといってくれるのだ、わざわざ反感を買うようなことはしない」

 いや、別にどんなこととは言っていないんですけど……あっ、修正不可っぽいですね。
 プラスに考えれば、何かしら利益があるのが依頼というものだし我慢するとしよう。

 先ほどまでの王としての顔はパッと温和なものへ変わり、ちょうど店主が持ってきた焼き串に目を輝かせる。

 ……初めて見る奴からすれば、二重人格を疑うような切り替えの早さだ。

「──むぅ。しかし『生者』、私も『生者』の世界へ向かったことはないのだぞ。なんとかならないのか?」

「こればかりはなぁ。俺たちも俺たちで、誰にも会わないようにひっそりと暮らしているのに、それを邪魔するのはどうかと思うぞ」

「そう言われると……今回は諦めるしかなさそうだな」

 まだ諦めていないようなので、次も論破できそうな理屈を用意しておかねば。
 ……そういうときこそ、『SEBAS』が居れば問題なしだな。


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