閉じる

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

世界改め 後篇



「──やる決まれば、すぐに終わるものだ。というか、『SEBAS』が全部やってくれていたわけだが」

《旦那様の了承なく実行してしまうと、景観などに影響が出てしまうため行えていませんでした》

「景観、大切だろう? けどまあ、俺がデザインするよりは、『SEBAS』がやってくれた方がいいし。完成後のイメージ図さえ用意できているなら、それで決めるようにしようか。それなら納得がいく環境ができる」

 逆に景観ばかりに固執して、トラブルになることも現実にはあったみたいだけど。
 そこは住民と相談をしながらやっていくのが、時間が掛かるが最適なんだろうな。

「強引にはやらない、自分たちでこういう風になりたいと考えるのが一番なんだよなー。できるだけ星の力に頼らない、それが現実でも行われている手法なわけだし」

《畏まりました。カエンと共に聞き込みを行い、求めているモノや失いたくないモノを調べておきましょう》

「助かる。ただの会社員が世界創造なんて極難ゲームは無理だしな。建物や環境はどうとでもできるけど、暮らす住民の好感度だけはどうにもならない」

《【救星者】の能力の中には、住民の好感度が性能に左右するモノもございますし、協力させていただきましょう》

 ……全然知らなかったが、『SEBAS』が言うからにはそうなのだろう。
 まだ未実装の能力らしいので、いずれは好感度を上げる必要があるのかもな。

「好感度はまあ、『SEBAS』たちが訊いてきてくれたものでどうするかを考えてからにしよう。とりあえず今は、家族の御出迎えについても考えなければならないし」

《迷宮の方はすでに八割がた完成しておりますし、旦那様から挙げられた家族の方々の意見を反映させるのみです》

「……本当、お前は仕事が早いよ。ついでに任せておきたいんだが、俺の新装備を考えてくれないか? 家族が冒険をする中で、俺だけ作業服ってのは空気を削ぐからな」

《お任せください》

 性能に関してはどうでもいいので、見た目だけでも取り繕うことに。
 軽く要望を伝えて、それから再び作業に手が出せないかと考えてみる。

「……アイプスルは俺にとって居心地がいい場所だ。けど、それだけじゃ足りないんだよな。家族が、そして住民たちが居る世界なんだから、それを忘れてはいけない」

《そうですね。旦那様、私も旦那様に生みだされた頃よりも、アイプスルに尽くしたいという意識が高まっております。これも立派な成長……なんでしょうか》

「ああ、間違いない。自主的にそう感じてくれるのは、『SEBAS』が感情を以ってアイプスルを思っているからだ。これからは、ただ演算するだけじゃない、お前自身の想いとやらを大切にしてやってくれ」

《承知しました》

 サラッと答えたが、嬉しい変化だ。
 世界最高のAIである、このEHOを司るAIよりも『SEBAS』の方が上なのかもしれない……親バカだけがそう思った。


「虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く