虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

戦乙女談(01)



 ツクルが去ったヴァルハラ。
 あれから数日後、彼らの営みは変わらず戦いを中心として続いていた。

 しかし、一つだけ変化したことが……とある戦乙女が実力を発揮し、さまざまな猛者たちを相手に勝利を重ねるようになったのだ。

「……ふぅ、良い戦いでしたよ」

「は、はい!」

「では、私はこれで……」

 使用していた武器に魔力を流し、形を変えて仕舞う。
 それはツクルが彼女──アインヒルドに与えた宝珠状の武器であった。

 使い慣れるようになったそれを持って歩く彼女の下へ、一人の戦乙女が声を掛ける。
 それは、ツクルが戦乙女リーダーと呼んだ個体であった。

「今日も大変ね、アインヒルド」

「はい、最近はよく……って、だから、その名前で呼ぶのは止めてください! わ、私にはまだ、名前は無いんですからね!」

「そうでしたね。分かりました、以後は気を付けましょう──アインヒルド」

「も、もう~!」

 ツクルが去っていこう、彼女の名前はいつの間にかアインヒルドで定着していた。
 戦乙女たちは格好のネタとして、戦英霊たちは勝負を吹っ掛ける際のネタとしてだが。

 いずれにせよ、アインヒルドはそれに反応していつもよりも感情的に動く。
 そのため、これまでよりも彼女はヴァルハラで人気となっていた。

「ごめんなさいね、ついやっちゃうのです」

「……つい、でやらないでください」

「本題に戻りましょう。これから先、貴女はどうするつもりなのですか?」

「……どうする、とは?」

 真剣な表情に、アインヒルドもまた顔を引き締めて問う。
 否、その意味は分かっていたが、それでも確認する。

「貴女を求める者がいる。それだけで、我々『戦乙女』には使命が生まれます。彼ら英雄たちと共に過ごし、死した時その者をこの世界へ連れていく……それが戦乙女です」

「し、しかし……彼の者は死んでも死なない体なうえ、すでにこちらへ来ています。べ、別に考慮せずとも良いのでは?」

「──神託がある、と言ってもですか?」

「なっ! なぜですか、あの者が来てから神託の頻度が上昇しています! これではまるで……神々があの男に目を掛けている、そう言っているようなものではないですか!」

 これまで、神託が一日に二度与えられるようなことなど滅多に無かった。
 試練を行うにしても、一日で完遂した者など過去に訪れた『騎士王』のみ。

 そして何より、神託は一月に一度あればよいほどで、無い月だってあるぐらいだ。
 だというのに、ツクルが来て何度も与えられる神託……そう考えてもおかしくない。

 少しの可能性に──否定されることに賭けたアインヒルドだが、返答は違った。

「そうです。どうやら彼は、他世界の創造神様の祝福を授かっているようです。そして、我らが神々に伝言を伝えられたと」

「で、伝言……ですか?」

「ええ、それは──」

 信じられないことばかり、そして最後に伝えられたその内容に……アインヒルドは、とある決断をする。

 それをツクルが知るのは、再びヴァルハラの地へ足を踏み入れたときだ。


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