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虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

ヴァルハラ その20



 部屋から出ると、アインヒルドがこちらを見てくる。

「……何を、お求めになられたので? 貴重なスキルですか、それとも武具」

「いや、そういうものじゃなくて……これだよ、これ」

「これは……借用書、ですか? しかも、私たち戦乙女の?」

 俺が願ったのは、彼女が言った通り戦乙女の所有権を借りるための書類だ。
 ただし、契約そのものに関しては独りに限るし、相手が納得しないと契約できない。

「そう、だって契約した戦乙女はそいつの所有物になるんだろう? だから、そいつが勝てば利益を俺も得ることができる。つまり、傭兵みたいなものってわけだ」

「……そのように考える方は、これまでいませんでしたよ」

「そりゃあ戦闘狂の集まりだしな。別にさ、搾取したいわけじゃないんだ。納得の上で、戦闘をしたときの七割ぐらいの評価を分けてもらいたい……というわけで、どうだ?」

「わ、私ですか!?」

 報酬の中に借用書を見つけたとき、真っ先に思い浮かんだのは彼女だ。
 戦闘力だけなら、今は戦乙女リーダーの方が高い……だが、求められるのは彼女。

 あらゆる武器を使いこなす才、それは色物やネタ武器などによって多様な力を発揮するアイテムを提供できる俺にピッタリだった。

「たとえばさ、魔力を籠めるだけで好きな形に変形する武器なんかがあったとしたら……使いたくなるか? ──魔術『千変宝珠』」

「これは……あのときの」

「丸い形だけじゃなくて、こんな風に……好きな形に変えられる。それを普通の武器として使えれば、戦い方は無限に広がる……どうだ、使ってみたくなっただろう?」

「……ぜ、全然! 全然ですよ、これっぽっちも思いません! だ、だいたい、それでは私と貴方が……け、契約する必要が生まれてしまいます!」

 なぜそこを気にするのかはさっぱりだが、彼女……というか『戦乙女』としての感性的に問題があるのかもしれない。

 しかし、それでは俺がここで手に入るアイテムを恒常的に獲得できるという夢の作戦が始まる前から頓挫してしまう。

 それだけは避けたい、つまりは彼女の説得が必須だ……どうにかなるかな?

「俺と契約して、最強の戦乙女になってみないか? 望む物があれば、全部俺が叶えてやる──」

「そうではなく、契約をすること自体が嫌なのです! だって、だって……契約はもっと崇高な……」

「あっ、うん。そうだね」

「真面目に聞いてください!」

 ……どうやら、あれのようだ。
 初心、というかなんというか……これ以上は何も言うまい。

「別に何も要求しない、むしろそっちが必要なアイテムを言えばいい。俺はただ、ここで手に入るアイテムが貰えればいいだけだ。しいて言うなら……アインヒルド、そう名乗ってもらいたいがな」

「で、ですが……その、心の準備が……」

「それなんだがな、そこまで重要なものじゃないと思うんだ。今度、誰かと契約したヤツに訊けばいい。それで分かると思うからさ」

「は、はあ……」

 経験者に訊けば、彼女の常識が変わることは間違いないだろう。
 それが無くなれば、あとは俺の利点を押しだすだけでいい。

「試作品だが──いくつかの武器種に変形するこれを渡しておくからさ。それの使い勝手が良かったら、契約してくれ。今は書類とかは交わさない、仮契約でいいからさ」

「……それでしたら、分かりました」

「じゃあ、そういうことで。また今度来るから、そのときはよろしくな」

「ええ……ただ、変わりませんからね」

 そう告げる彼女に振り返らず手だけを振って、転移装置で帰還を行う。
 ……さてさて、ようやく例の品を手に入れられるよ。


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