虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
ヴァルハラ その19
そこは閉ざされた扉の前、一人の戦乙女が守護する場所に足を踏み入れた。
「──アインヒルド、来たぞ」
「ええ、お待ちしておりました……ただ、私に勝手な名前を付けないでください!」
「ああ、はいはい。それより、交換をしたいわけだが……空いているか?」
「ええ、だからこそここに……って、なんでもありません! ほら、さっさと──行ってください!」
本日の当番だったらしい彼女に、俺は奥へ追いやられてしまう。
彼女が通り抜けないよう、皮膚のような柔らかい結界で包まれた体で押し込まれた。
「ここが……願いの間か」
そう呼ばれている場所らしい。
奥に玉座が置かれたそこに、神々が降臨して何かを告げることが有るんだとか。
そこが願いの間という呼ばれ方をされているのは、もちろんここで願うことで欲しいものが手に入るからだ。
「──神評を!」
天に向けてそう叫ぶと、無駄に演出された光が差し込み──本が降ってくる。
そこには『カタログ』と記されており、指定した物を貰えるらしい。
「人によって、形式は違うらしいけど……あまり欲しいものはないかな? 職業結晶もあるみたいだけど、職業能力がなぁ」
たとえば【死戦英霊】だが、あくまでヴァルハラなどの北欧神話になぞられた場所でしか発動しないようだ。
しかも、その効果はヴァルハラでも発動する死に戻りらしく……俺に与えられる恩恵がこれっぽっちも無かった。
あとは、女性限定で【戦乙女】もあるみたいだが、さすがにルリやマイにプレゼントするのは……あまりやりたくはないな。
「どうすればいいんだか……『SEBAS』はどう思う?」
『────』
「やっぱりか。ここも予想通り、ジャミングが入ることまで分かっていたみたいだな、仕方ない、自分で決めるか」
ペラペラとカタログを捲り、何か無いのか探してみる。
こういうとき、もし『SEBAS』ならとかは考えない。
なぜなら、たとえそれをしようと届かない思考を求めたのが『SEBAS』だからだ。
俺の失敗を、より良い方向へ導く存在──それこそが『SEBAS』なのだから。
「……これ、しかないかな。何か問題があるかもしれないが、あとは『SEBAS』にどうにかしてもらおう」
そして、とある報酬を見つけだして祈る。
欲しいと懇願することで、評価が足りればそれを与えてくれる仕組みらしい。
カタログに載っていたから分かっていたのだが、どうにか俺の願いは叶うに値するものとして判定されたようだ。
「──あとは、交渉だけだな」
そういうものを選んだのは俺。
直感だと、成功率はあまり高くないが……頼めるのは彼女だけだったしな。
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