虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

ヴァルハラ その12

連続更新です(07/12)
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 心臓を止めてから少しして。
 完全な死を迎えた世界蛇ヨルムンガンドは、冠した名よりも広大な世界に還元されていった。

 一方の俺は体内から排出され、その段差で死亡しながら闘技場へ帰還する。
 辺りを見渡せば、誰も彼もが俺を注目するようにジッと見つめていた。

 当然だろう、『騎士王』の技巧を再現した俺の動きは尋常ではなかったはずだ。
 それはこの世界で英霊として、戦い続けた彼らならば理解しているはず。

 いったい何者なのか、そういった声が聞こえてくるような気がする。
 そう訊かれたらいつも通り、『生者』だと答えるだけなんだがな。

「さぁ、次を用意してくれ!」

 闘技場ではあるが、司会も実況も天の声も無いので自分で叫んで要求する。
 まったく疲れていないので、さっさと終わらせたいというのが本音だった。

 その言葉に応えるように、次の試練がすぐさま構築されていく。
 先ほどとは打って変わり、地面に出現する魔法陣──その数、数千。

 今の自分に、先ほど装着した仮面が付いていることを再度確認し、いつも通り口を動かして尋ねる。

「ああもう、面倒臭い……『SEBAS』、誤魔化せるか?」

《可能です》

「それで結構。なら、そういう部分は任せるからな──『闘仙』」

 権能と動き、それぞれを異なるアイテムを用いて再現していく。

 独特の呼吸法で体内を調整とか、仙丹というエネルギーと取り込む……とかそういう作業をアイテムが自動的に行ってくれる。

 俺が行うのは、目の前に現れた大量のアンデッド系モンスターをどうにすることだけ。
 それ以外のことは考えなくてもいい……ずいぶんと、脳筋な発想なこって。

「まあいいや──『地裂脚』」

 愛用の仙術(物理)の名を告げると、体が勝手に動いてそれを再現していく。
 強く踏み付けた地面からエネルギーを組み上げ、体の中で溜め込んで再び地へ還す。

 すると地面が罅割れ、そこに飛べないアンデッドたちが呑み込まれていく。
 理屈は要するに、仙丹で強化したから地面が割れました──そんな暴力的なものだか。

 これには観客もビックリ。
 北欧の世界だからぁ、仙人風の人……というか黒髪の人もそんなにいないようだし。

 しかし、俺はショーをやっているわけでもないのでさっさと次の作業へ移行する。
 腕に水をぶっ掛け、先ほどと同じように地面を踏み付け──

「──『天閃腕』」

 薙いだ腕からエネルギーが放たれ、浮遊していた霊体系のアンデッドも消していく。
 そう、ルリのところの教会でお布施をしたついでに聖水を貰っていたのだ!

 なお、額が額だったため最高級の物だとか言われていた……しかも複製できなかったので、保存していたが今回は使う。

 不思議な神様パワーが覿面だったか、浄化されていく霊体たち。
 先ほどの世界蛇と違い、二回戦の相手は瞬時に片付けられてしまうのであった。


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