虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
ヴァルハラ その02
「足掻こう、『生者』よ」
自分の名であり、この世界でもっとも生に固執したモノへ与えられる力を呼び起こす。
すべての指の間にはメスを握り締めて、現れる二体の魔物に立ち向かう。
「とはいえ、今回はやることもシンプルだからな……さて、始めるとしよう」
《──御武運を》
「ああ、愚者なりにやってみるさ」
今回も、『SEBAS』の補助を受けての戦闘は行えない。
先ほど発見した狼と鷲の魔物、それらがこちらに近づこうと──俺は抗わない。
「ここの奴らも死ぬんだからと、同じ手を使うこともあるんだろうな」
『グォン!』
『ピィーッ!』
「けどまあ、こんなに早く蘇ることは……無かったんじゃないか?」
『ゴッ!?』
『ピィッ!?』
殺されたらはい終了、そう終わらないのが『生者』に与えられた特権。
鉤爪で俺を掴む鷲、牙を突き立てて噛み殺す狼……その両方にモルメスを投げる。
「そういえば経験値、その殺した奴の分まで大量に入っているのか。なるほど、掠めただけでも効くには効くと。だが、部分が狭いから与えたダメージにも限度がある……さしづめ、固定割分ダメージと言ったところか」
魂魄に傷が入れば、いかなる存在とて死の運命へ一歩近づく。
たとえそれが掠り傷であろうとも、触れられたという事実だけで致命傷だ。
「地味なアイテムを……ほいっと」
『ヴォ──ッ!?』
「特製のお酢『酢ィ酢ィレモン』だ。鷲、お前の方にもそろそろ行くぞ」
『ピギャ──ッ!?』
かつて、守護獣たちの反感を買いまくった臭いの殺戮兵器。
放ったそれは一瞬で風に舞い、狼と鷲……そして監視者たちの下へ。
『────ッ!?』
遠くの方で悲鳴が上がった気もするが、それは気にせず成すべきことを成す。
残った六本のメス、それらを体の要所要所に突き刺していく。
その一つは口へ投擲したもの、ゆえに悲鳴も咆哮も上げることはできない。
狼は脚を、鷲は羽をさらに裂いて心臓や尾に刺していく。
俺の攻撃力は1、だが『貧弱な武力』の効果で確実に生命力を減らしていける。
だがそれは、彼らがもっとも望んでいない見苦しい戦い……だからこそ、実行した。
「チクチクチクっと、そろそろ終わりになるわけだが……魂魄ごと殺しちゃっても問題ないのか? ──教えてくれよ」
「……問題ありません。この世界において死とは、一時のもの。それはどのような状態の存在であろうと、通用する理ですので」
俺の声に応えるように、空から降りてくる天使の羽を広げた少女。
鎧を身に纏うその姿は、まさに『戦乙女』そのものだ。
──なんだか、物凄く不機嫌だけどな。
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