虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

天へ逝け 後篇



《HPが0となりました(蘇生猶予時間まで残り60秒)
 即座に死に戻りを選択しますか?
[種族・職業・スキルレベルの合計が100に至るまでは、何も失いません]
     〔YES〕/〔NO〕

          ・
          ・
          ・

 スキル“英魂献宮”が発動、死に戻り地点の強制書き換えが行われます。
 元に戻す場合、条件を達成する必要が発生しました。

 ──蘇生猶予時間が経過しました。

 死に戻り登録地点『ヴァルハラ』にて、肉体の再構築を行います》

  □   ◆   □   ◆   □

 ???

「……ださい、起きてください!」

「……ここは?」

「『生者』さん、ヴァルハラに着きました」

 俺をここに導いた天使の羽を持つ少女──『天死』が、俺を覚醒させる。
 ゆっくりと体を起こし、辺りを見渡す……やはり、見覚えの無い場所だった。

「ここが……ヴァルハラなのか?」

「正確には、ヴァルハラ小世界です。ここは世界樹『レーラズ』に守護されたこの地は、神世界樹『ユグドラシル』に属する世界の一つなのです」

「……要するに、でっかい世界の中にある箱庭みたいなものか?」

「そういった見解で構いません」

 世界樹と称された大樹に、これまた世界遺産級に巨大な宮殿風の城が存在する。
 城は世界樹の影に覆われているが、内部のナニカが幻想的に輝いていた。

 そんな場所が、箱庭なのか……たしかに神話的には、九つの世界が世界樹と結びつくような場所だったっけ?

「……そういえば、わざわざあそこに降ろさなかった理由は?」

「えっと、私って実は嫌われ者でして……今回は『騎士王』さんに頼まれましたから送りましたが、本当は……あまり来たくはありませんでしたね」

 仄暗い笑みを浮かべる『天死』に、俺はこれ以上何も言えなかった。
 ……というわけでもないので、言いたいことはしっかりと伝えておく。

「──ありがとうございます、ここに連れてきてくれて」

「ッ……!?」

「敬語ぐらい、使えますよ。成人していますので。『天死』様、貴女様のお蔭で私は最後の鍵を手に入れる可能性に手を伸ばすことができます。それが貴女の後悔以上の結果を生みだせるよう、努力させていただきます」

「……あの、止めてもらえますか? やっぱりその……違和感が、ですね」

 心の中でしょんぼりとする。
 だが、口調を改めてお礼をして、『天死』とは別れることに。

「では、お気を付けください。すでにここへ来てしまえば警戒は薄いですが、敗北し続ければ追放されることになります。何より、今の『生者』さんは生身です。英霊たちを相手取るには少々分が悪いかと」

「とりあえず問題は無いと思うぞ。これまでもいろいろと巻き込まれてきたが、やってこれたわけだし。今さら英霊の一人や二人、どうにかなると思う」

「……分かりました。では、私はこれで失礼しますね」

 来たとき同様、何かしらの術式が『天死』の足元に構築されると──彼女の姿はここから消え去る。

 ──残ったのは、おそらくもっとも最弱な英霊候補であった。


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