天を知れ 後篇

「その前に一つ、言うべきことがあったな。『生者』、どこに行きたいのだ？」

「……どこ？　だから、天上世界に行くつもりなんだが」

「そうではない。どの天上世界へ、ということだ。知らないのか、いくつもあると？」

「…………」

　初耳だった。
　どうやら『ＳＥＢＡＳ』も同様だったようで、情報の更新を始めている。

「そうだな……先に地下世界の話をした方が良さそうだ。『生者』の経験と合わせて説明するなら──人工地下世界である『暗躍街』と異なる地下世界『冥界』が、それぞれ同じ場所でありながら、異なる層にあるわけだ」

「……つまり、俺がどの世界に行くかで行き方も変わるってことか？」

「当然だ。先ほどの身投げの場合、大抵の者は『天界』か『冥界』へ向かうことになる」

　下にも逝っているじゃないか、とかそういうツッコミは今さらなので我慢。
　しかしながら、もともと行き方を知らずに行こうとした俺としては助かる情報だ。

「そうだな……聖属性のヤツがいて、倒しても困らないような場所がいいな」

「──いや、何を死に逝くのだ？」

「なんかおかしかった気もするけど、別に普通だろう？　素材集めだよ、素材集め」

「そうか。ならば……『ヴァルハラ』が一番だろうな。あそこは合法的に闘いを挑み、その報酬としてアイテムを手に入れられる。何より、猛者が集まるので力が得られるぞ」

　ヴァルハラ、というと北欧神話に出てくる英霊たちが招かれる宮殿だったな。

　前に『冥界』でこの世界に地球の使者の世界が混ざる云々を考察したことがあったが、今回はまんまなのかもしれない。

「そこにはどうやって行くんだ？　伝承通りに選ばれろ、なんて言われてもさすがに無理だからな」

「そこら辺は承知している。『超越者』の中にはヴァルハラ出身の者がいる。そいつに頼み、連れていってもらうための交渉を行う機会を用意しよう」

「……やってくれるわけじゃないんだな」

「当然だ。私がどれだけ勧めようと、あの地では何も通用しない。『生者』自身が行動せねば、向かうことすらままならぬ」

　……まあ、選ばれし者だけが招かれるような場所だからな。
　天国が人徳で選ばれるのであれば、こちらは武の功績で選んでいるわけだし。

「それでも良いのであれば、準備をするとしよう……どうする？」

「当然、やるに決まっているだろう。何もしないより、まずやってから考えるさ……最悪あらゆる手段を許容すれば、一度会ったときにすべて解決できる」

「分かった。では、すぐに始めよう」

　そう言って、『騎士王』は転移魔術でこの場を去った。
　とりあえず、戦闘の準備かな？
　いろいろと死んでおかないと……。