虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

冥界狩り その05



「到着しました、最深部!」

 荒野の果ては、深淵の穴が広がる終わりの地とも呼べる場所だった。
 どれだけ奥を見ようとも、そこには下の穴へ続く淵しか存在しない。

「で、あれが邪の魔物かな? ……魔物って言ってたからそう判断したけど、本当に魔物なのか?」

《通常の霊体がレムリアの民たちと同等の状態であるのに対し、悪霊たちは魔核を生成して外部へ脱走することが可能となります。その時点で、彼らは魔物と同類です》

「たしか……瘴気を取り込んで、魔核を生み出すんだっけ? だけど今回は、明らかな理由があそこにあるな」

 それは先ほど遠目に見た深淵の穴。
 そこから何か、黒い煙のようなものが立ち込めている。

 冥界の下に存在する領域に発生する、生者のエネルギーを奪う黒い霧と似ていた。
 だがアレとは違って、力を奪ってはこないことを俺は知っている……体で味わい。

「逆に、エネルギーを悪霊たちに供給しているのか? ずっと生成されている以上、下にもエネルギー源が今もあるみたいだし」

《かつてはレムリアが封印され、今以上に発生していたのでしょう。それが無くなったからこそ、『冥王』も了承したのかと》

「あれ以上は全然増えていないしな。どういう理屈で初期の霊体がここに来るか分からないけど、それだとバレてるってことか。代々伝わる何かとか、王道だよな」

 王家に伝わるーとか、先祖代々ーみたいな感じで語り継がれるのは定番だ。
 いろいろと権限云々で揉めたときに知っていたようだし、ナニカは伝えられている。

「……まあ、ともかく。親玉が出てきそうだし、行くとしよう」

 少しずつ穴に近づいていくと、その分だけ濃い死の気配が感じられた。
 そして、その反応は少しずつ近くに感じられ──瞬きをした一瞬で、ソレは現れる。

「人型だな……うん。魔物っていうか、魔人みたいな感じだな」

《魔物と魔人の違いは、知性と人の姿になれることのみです。魂魄情報を継ぐことで人の姿になる者、魔物が進化の果てに進化した者など方法はいくつもございます》

「要するに、アレは人から魔族になったってことか。さて、強そうだな……」

 人型なのは魔族なので当然だ。
 それに加え、昏い黒を包帯のように巻いているのが目の前にいる邪の魔人。

「『SEBAS』、最適解を頼む」

《畏まりました》

「じゃあ、始めるとしましょうか」

 ずっと持っていた光子銃を使い、【勇者】の力を重ねて弾丸を放つ。
 だが、これまでの個体と異なりソルロンを受けただけある……いっさいの反応がない。

 ──『SEBAS』はいったい、コイツを相手にどうやって戦わせるんだか。


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