虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

冥界狩り その03



 魔力の回復を待って、行動を再開する。
 先ほどの殲滅のお蔭で、この辺りの霊体たちは輪廻にも行けずに消滅を……あっ、半端なく罪悪感が。

 まあ、【勇者】の光なのできっと何かありがたいご利益があるだろう。
 魂が消滅した場合、リソースがなんだのと言っていた気もするし……何かあるよな。

「奥は……ヤバそうだな、うん。俺でも分かる、あの悪霊が居そうな雰囲気」

 禍々しさが奥に行けば行くほど漂う。
 ガンガン鳴り響く警鐘は、間違いなくその危険さを示している。

 愛用の称号『生者』に付属した機能だが、今回はそれとは別にもう一つの警鐘──本能が打ち鳴らすソレが脳内で響く。

 活動ができないというわけではなく、生身だった場合を考えた体が生きたいと喚いているのだろう。

「とはいえ、死なないけどさ。さーて、どんどん行くとしましょうか」

 ヤバいと感じていた警鐘たちも──片方は機能をOFFに、もう片方は時間が経つだけで勝手に消えていった。

 もともとあってないようなものだし、休人の中には痛覚を完全に遮断した副次結果として威圧とかが効かない人も居るらしい。

「効かないって言っても、スキルとして威圧されれば効くけど。あくまで圧迫面接で、ビビらないって感じらしいな」

《恐怖は感じなくなりますが、状態異常としての『恐怖』は防げないということです》

「そうそう、そんな感じだ」

《ですが、旦那様が感じたものはおそらくそれとは異なります。邪に属する存在は、あらゆる生物の天敵に成り得るとされていますので。それが旦那様の脆弱さとあいまい、もう一つの警鐘を鳴らしたのでしょう》

 邪属性って、そんな難儀なのか。
 まだその存在を感じたのは、遠視の魔道具越しだったというのに……。

「弱いのは仕方ないか。けど、そんな休人にも効くような能力を持っているってのは厄介になりそうだ」

《聖と邪に属する存在は、神に届き得る者とされております。聖は美徳を、邪は悪徳に働きかけるようです。ですがそれ以前に、魂に干渉できるとされています》

「……つまりそれか。設定上、俺たちの体は仮初の肉体に魂を入れられたとされている。そこに直接干渉可能な存在がいるなら、被害も尋常じゃないと悟っているわけだ」

 実際、死神とかアンデッドっぽい魔物に死に戻りさせられた休人は、完全復活までにいつもよりも時間が掛かったらしい。

 そのとき、休人は痛覚を切っていたはずなのに恐怖を感じた……とタクマが言っていたので、間違いないだろう。

「俺は死神様のところで慣れすぎたかな? うん、たぶんそれが原因だ」

 初期も初期だ、減るようなモノもなかったし死神様が何かしてくれていたのだろう。
 改めて感謝を……戻ったら、神像に祈りを捧げようと考えるのだった。


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