虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

逆侵攻 その07



「これ、どうするんだ?」

「とりあえず、持っていこう。ふっ、私の魔術──」

「ああ、それも無詠唱だからな」

「……分かっている」

 名前はともかく、効果は異常な『騎士王』の魔術によって中継点を固めた氷の結晶は彼女の保有するどこかの亜空間へ納められる。

 これで済めばよかったのだが……まだ、何かあるようだ。

「『生者』、気づいているな?」

「ああ、これは……そうか、だから中継点なのか。それならそうと、先に言ってほしかったけどな」

 中継点とは侵略者を地上へ解き放つ能力を持つ侵略者なのだが、その場所には異なる用途が存在した。

 星のエネルギーを地上へと伝える、本来の意味での中継点。
 世間一般では、地脈や龍脈と呼ばれる力の奔流が漏れだす噴出点のことだったのだ。

「どうにかできそうか? できないのであれば、私が粉砕してしまうが」

「それはそれで魅力的だが……まあ、一度試してからにしてみようぜ」

 小さな声で「『SEBAS』」と呟き、己の職業である【救星者】の力を強く意識し、噴出点に足を踏み入れる。

 無造作に侵入した俺を追い出そうと力が暴れるが、それは貴重な死の体験をするだけで特になんの変化ももたらさない。

 ゴゴゴゴッと大地が揺れ動くが、そこは俺も『騎士王』も完全無視である。
 あっちも信頼してくれているようなので、サクッと解決してみよう。

《解析完了──星脈の波動パターンを読み取りました。鎮静へ誘導しますか?》

「ああ、やってくれ」

《畏まりました》

 職業能力は一つだけではない。
 完全開放されていなかった頃から、無意識で使えていた星脈の管理能力。

 だがそれは、存在してもただの人間には扱うことのできないような能力。
 ならばどうするか……できる存在に、管理のすべてを委ねればいいだけのこと。

《氾濫制御、星核への侵入……失敗。制御に成功したエネルギーを利用し、一時的な障壁の製作を行います》

 よく分からないが、『SEBAS』でもすべてをできるわけではなさそうだ。

 星核という単語が[ログ]に表示されているのだが……さすがにハッキングをここからやって、そのまま侵略者から権限を奪い取るのは難しいだろうに。

「──まあ、できたみたいだな。『騎士王』はどう思う?」

「ああ、問題なかろう。それより、準備ができたぞ。掴まってくれ」

「あいよ、殺さないように優しくな」

「どのような扱いであろうと、その結果は変わらんだろうに」

 実際そうなんだけれども、そのまま肯定してはダメな気がするのに無視しておく。
 そんな俺を『騎士王』はクスリと笑い、そのまま転移魔術を起動するのだった。


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