虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
逆侵攻 その06
「安心しろ。強化魔術ぐらい、しっかりと心得ている」
「……そうか。じゃあ、絶対に詠唱しないでくれよ。無詠唱、それも術式名まで言わない完全無詠唱で使ってくれ」
「……それに何の意味がある?」
「戦う気が失せなくて済む」
いろいろとヒドイ彼女のネーミングセンスはさておき、渋々と魔術を施す『騎士王』。
腐っても万能、そのステータス上昇率は並大抵の魔法使いを超えている……らしい。
やってもらったことなんて一度もないんだから、比較するものが無いんだよ!
「じゃあ、行きますか──『侵略者』共」
便利な『覇獸』の権能を使い、侵略者たちの能力を俺も一時的に借り受ける。
別に仲間扱いされるわけでもないが、今はその能力が必要だった。
「『騎士王』、自分の所に来た分は自分で処理してくれよ」
「……頷いたら、間違いなく『生者』は私を見捨てていきそうだな」
「残念、不正解。答えは──いずれにせよ、俺はとっとと目的地に向かう、だ」
「……分かってはいたさ」
なら、言わないでもらいたい。
鞘に仕込んだ転移装置が作動し、視界に収めていた座標まで瞬時に移動する。
そこは侵略者よりも上の場所、死角ではないが不意を突くことができる位置だった。
「ただ、目が人と同じじゃないからこのままじゃダメだよな──『吸死の黒霧』」
目晦まし、そして生命力吸収による死亡を狙った霧が放たれる。
前回は聖獣の森であったので多用しなかったが、今回は別にかまわないだろう。
だが、中継点である巨大な侵略者は──その大きさからはありえないと思える超駆動で動き、それを回避した。
すぐに座標を視界で指定し、転移を行って同じことを繰り返す。
それを何度もやっていく内に、俺と中継点の距離は縮まっていく。
「捕まえたぞ──『凍死の氷晶』」
振り撒いたのは綺麗な氷の礫、中継点を囲むようにして放たれたそれを中継点はついに躱しきれず、それに当たる。
痛みなど感じない、すべては一瞬で済む。
鮮やかな結晶を中継点の体に咲かせたと思うと、ガクッと中継点の機動力が落ちる。
そうして次々と礫が当たり、動きが鈍っていく中継点。
いつしか動きは完全に静止し、侵略者を生むことも無くなった。
「……っと、こんな感じか。『騎士王』、処理できているか?」
「ふぅ、少々苦労したがな」
「嘘つけ、片手だけで処理していた奴が苦労なんてするもんか」
余裕だったのか、それともこれも俺に見せていたのかは分からない。
いずれにせよ、あとは『騎士王』に任せておけば問題は解決するだろうな。
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