虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

職業勇者 中篇

連続更新です(08/12)
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「──“孤絶ノ衣”」

 握り締めた石ころに魔力を籠めて、そう告げる……すると俺の体はスッと透き通り、辺りから存在を認識されなくなる。

「魔力消費さえ気にしなければ、本当に便利な魔術だよな」

《旦那様、本日はどうしてそれをご使用なされるので?》

「まあ、気分だよ。光学迷彩でも充分な性能なんだが、こっちは存在の遮断っていうから面白くてな。『SEBAS』、改めて解析するにも使った方がいいだろう?」

《……感謝します。魔石のストックは、こちらで増産しておきます》

 俺が使ったのは『愚者の石』で、発動させたのは『騎士王』お手製の魔術だ。
 存在そのものを隠す魔力の衣を纏い、他者だけでなく世界からも姿を消せるらしい。

 かつて『隠者』を見た『騎士王』が、権能について考察していたときのデータを基に即席で編んでくれた魔術だが……燃費以外、文句の付けどころがない隠蔽手段であった。

「『超越者』の権能を模倣できるって時点でいろいろとツッコみたいが、それ自体はいちおう『SEBAS』もできるからな。ただ、できるできないの分野に差があるけど」

 今の『SEBAS』であれば、解放された情報を使って魔術も作れるかもしれない。
 俺はまだ全然調べていないが、訊くところによれば理論上は可能らしいし。

「……けどまあ、コイツにはバレるよな」

「私の魔術を使ってくれているようだな。どうだ、“孤絶ノ衣ウツロナルマトイ”の性能は?」

「名前はともかく、たまに使っているぞ。ただ、いずれは自前でどうにかしたいがな」

「うむ、そういった向上心は好ましいな。昔の『騎士王』の中には、知識を与えすぎた結果『超越者』の身を滅ぼした者が居たらしいぞ。『生者』がそうならなくてよかった」

 知識だけで滅ぼすって……その毒のような知識は、すべて今代の『騎士王』が継承しているのだから末恐ろしい。

 その片鱗が、中途半端に作られた魔術にも使われているのだろうか?
 完全版になったら……まあ、いずれは自分たちで完成させる気でいるけど。

「ところで『生者』……なぜ【勇者】になっているのだ? なりたかったのであれば、早く言ってくれればよかったものの」

「……言えば就けるものなのか?」

「私に……いや、『騎士王』に不可能はないからな。【騎士】のときのようにすぐに、というわけにはいかないが、時間さえあれば確実にできただろう」

「……いや、遠慮していただろうから気にするな」

 面倒臭いことこの上ない。
 だが、何か知っているのだからその叡智をお借りしようではないか。


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