虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
迷宮イベント その17
一日目から、数々の迷宮を突破していた俺ではあるが……本当に効率を極めて行動している休人なんかには勝つことができない。
当然だ、俺はいちいち傭兵ギルドへ向かう手間がある。
対して彼らは仲間同士で装備を変えるだけで、すぐに別の迷宮に向かっているのだ。
俺みたいな特化型ではなく、柔軟に変化する状況へ対応できるのが本来の休人である。
与えられた[メニュー]などの特権が、その優位性を如実に表していた。
「……はあ、このまま目を逸らしたかった」
なぜそんなことを考えていたかと言えば、それは現実逃避でしかない。
あれからすでに数日が経過し……残るはこの日、つまりは最終日となっていた。
これまで通り、傭兵ギルドで知人を頼って迷宮を踏破しようと考えていた……そのはずだったのに、ついにこのときが訪れる。
「ああ、楽しみだな『生者』! 私の力、その一端を見せてやろう!」
「……他は?」
「他……とは?」
「騎士だよ、騎士。他にいないのか?」
まさに『御守り』にして『重り』。
ダブルミーニングを掛けてしまうほど、俺の安寧に必要な彼らが……なぜか傭兵のリストから消えていた。
代わりに記されていたのは、『騎士王』の文字……そして『強制』の二文字。
それだけで、すべてを察した……嗚呼、この時が来たのかと。
そして現れた『騎士王』。
立場の問題からか、魔術で姿を取り繕ってはいたが……俺の鳴り止まない死亡レーダーからは逃れられない。
「で、どこに行くんだ? 俺としては、ここの『触れ合いの草原』がオススメだが……」
「なあ、『生者』よ。それはたしか、子供でも攻略できるという簡単な場所ではないか。私としては、この辺りを踏破してしまいたいのだが……」
「どれどれ……って、『逢魔の戦場』!? どんだけハイレベルな場所に俺を連れていこうとしているんだよ! いちおうでも傭兵だろう、もっと雇用主の言うことを聞け!」
「断る! それに、仮初の傭兵には契約などがいっさいないからな! ふっふっふ……この瞬間をどれほど待ち侘びていたか。よし、『生者』よ! 楽しい冒険の始まりだ!」
抵抗する俺だが、そんなものあってないような足掻きでしかない。
彼女こそが最強の『超越者』、万能にして全能の『騎士王』様なのだ。
誰にも止められない。
魔術でも使用したのか、俺を例の迷宮の入り口まで転移させると──そのまま中へ連れ込んでいく。
「ちょ、いったい何を……!?」
「私とて、『生者』に対する策を設けぬはずが無かろう。お前のことだ、すぐに暴くから先に言っておこう。それはお前の周囲ごと空間を凍結させることで、何もできないようにしてあるのだ」
「……クソッ、まだ対策していなかった」
「すぐにできなくなるが、今回だけなら問題なかろう……さて、楽しい楽しい迷宮の冒険が今始まるぞ」
そう笑う『騎士王』に……俺はただ、ため息を吐くことしかできないのだった。
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