虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

五州戦線 その16

「──というわけで、央五州へ行こう」

 突如二人っきりになったところで、そんなことを言いだした『宣教師』。
 可能な限り『何言ってんだ』みたいな目をしないように意識して、耐えておく。

「は、はあ……」

「君にしか頼めないんだよ。もともと星渡りの民を連れてきて、頼もうと思っていたんだけど……どうやら、全然こっちには来てくれないみたいだし」

「私たちがこの世界に降り立つ地点は、だいぶここから離れていますからね」

 だいたい四十区画分ぐらいである。
 一定間隔ごとにボスが配置されており、それを突破するまで俺たち休人はその先へ進むことができない……普通は。

 まあ、回り道をしても問題はない。
 ただそれが地形なんかもあるので、海に囲まれた倭島には休人が来ていないのだ。

「それで、どうしてこの状況で? 先ほど連合を組織したのちに、という話で纏まっていたではありませんか」

「あれはそう言っておかないと、勝手に突撃しちゃうからだよ。五州の人って、仲間を守るためなら捨て身の行動だって平気でやりかねないからね」

「……なるほど」

「僕は僕自身にしか使えない方法で潜り込むことができる。そして、君は……何か持っているんだろう?」

 期待の眼差しを向けてくる『宣教師』。
 実際、いくつかあるんだが……間違いなく『宣教師』は、アレのことを言っている。

「まあ──これがありますね」

「そうそう、それだよ! 視たところ、機械が使われているみたいだけど……それだけってわけでもないんだろう?」

「魔力を光に変換することで加速する機構、それに結界を足場にすることで空を走ることができます」

「……乗ってもいい?」

 物凄く目がキラキラしていた。
 子供のように輝く視線を向けると、俺と原付きを交互に切り替えて何かを訴えてくる。

「この廉価版を販売しますので、そちらをぜひご購入ください」

「えっ、売ってくれるの? ちなみに速く進めたり飛べたりするの?」

「多少の制限はありますがね。……っと、今は央五州でしたね。こちらを使い、私は侵入することにします」

「そうだね。壁には結界も張られているんだけど、そっちは僕の方でなんとかする。もともと『生者』が来なかったら、そういう作戦でいくつもりだったからね」

 そういえばそうだった。
 いずれは『宣教師』と外周の五州たちが、突っ込むための手段を取る。

 それを防ぐために……俺たちは事前にその作戦を実行するのだ。

「──では、行きましょう。合図はそちらにお任せします」

「うん、それじゃあ気を付けてね」

 ……まっ、とりあえず待ってみようか。


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