虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

五州戦線 その12



 南五州の情報は意外とすぐに集まった。
 餓えた人々は食糧を引き換えとして、自分たちには関係ない……だけれど他の者にとっては重要な情報を教えてくれるからだ。

「……なるほどねぇ、ここの人々は苛烈なレベリングによる特化戦術を取っていたのか」

《迷宮化には関わっていないかもしれませんが、間接的に得はできるでしょう》

「迷宮になれば、魔物が湧く。それを倒せばレベルは上がるし素材は手に入る……得しかないように思えると、疑いたくなるな」

 だが、南五州の人々と接していると、そうではないとなんとなく悟る。
 ただただ──戦闘狂、しかし守る方に思考が傾いている感じだった。

 というのも、子供よりも大人が餓えていたり、子供たちがしっかりとした生活をしているなど……まあいろいろだ。

 そうした情報から考察しても……彼らはただ、俺が初期に思っていたような者たちではなかったのだ──『SEBAS』曰く!

「親の愛は最強、って聞いたことがあるんだが……それって本当だな。俺としても、二人には絶対不満なくやっていけるようにもらいたいわけだし。もちろん、ルリも守りたい。それに……『SEBAS』たちもな」

《…………ありがとうございます》

「気にするな。俺よりも物凄く優秀で、糧るとこなんて与えられたチートスキルだけ、それでも俺はいちおうお前の親……みたいなものだからな」

 忘れてはいけない、『SEBAS』が誕生してからあまり時間が経っていないことを。
 現実よりも三倍速く進んでいることを加味しても……三歳弱ってところだしな。

「戦争の被害は戦場の中だけで留め、東五州のヤツらが来ないようにさらに警戒。なるほどなるほど、そりゃあ兵士もいないわけだ」

 あと食料……親が子を思うように、子もまた親を思うものだ。
 その結果、この州から大量の食糧が戦場へ持っていかれた。

 誰も文句は言わない……そうしなければ、自分たちの家族が失われてしまう可能性があると、理解しているから。

「子供もそういうことが分かっている子は、親にバレない程度に減らして分かち合っているみたいだし……凄い場所だな、ここは」

《もともと苛酷な環境だった、故にそういった気概が生まれたのでしょう。それが良いか悪いか、そういったことは分かりませんが》

「……そうだな。とりあえず、戦争が終わるまでは援助をしておくか。食べ物にならない素材なら、分けて貰えそうだったし。それと交換ってことでやってもらおう」

《畏まりました》

 まあ、戦争が終わらなければいつまでも続くだろうが、アイプスルに関してはほぼ無限に供給できるので問題ない。

 そして、『宣教師』が関わっていないなら過度な干渉はしない……どっちの方が、ためになるんだか。


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