虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

五州戦線 その10



 かつて五州は、一柱の神を崇めていた。
 しかしあるときを境に、五州それぞれが異なる神を崇め始め……現在に至る。

「まあ、何にせよ……神への冒涜ってのはこういうことだよな。けど、神様ってこういうのあんまり喜ばない気がする。やっぱり総体的な勝利より、圧倒的勝利の方が力も得られるわけだし」

《おそらく、元となった神が解釈の違いにより分裂したのでしょう。旦那様の世界でも、一柱の神が異なる神話に登場するといった例がございますので》

「らしいな……あと、名前が違っているとかそういうのも。この世界だと、それが本当に分裂してしまったってことか? なら、五州それぞれの求める結果も違うのかもな」

《……旦那様の仰る通りかと。再同化、簒奪など、それらの違いによって争いは激化の一途を辿っていると推測されます》

 誰だって、自分が崇める対象を奪われようとされているのであれば抗うだろう。
 たとえ合体ならぬ合神だろうと、それは自分たちの崇める神が主体でなければ拒否だ。

 求める結果は似ていようと、その差異ゆえに諍いは何度でも生まれる。
 それこそが宗教論争……そしてこの世界では、『(物理)』が付いていた。

「まっ、いずれにせよ迷宮の踏破を今する必要はないか。すべての場所を巡って、どの州に力を貸すかを決めてからにしよう」

《参加なされるので?》

「『宣教師』が絡んでいるならな。もし、これが全部彼ら自身で決めたことなら、俺たちに介入する意味は無い。そのときは商人らしく、薬売りだけに徹しておこう」

《畏まりました》

 前にも言ったが、蘇生薬や万能薬は出し渋るだろう……しかし普通のポーションであれば、いくらでも誰にでも売ってやろう。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 キリヤシ岳

 すでに東五州を抜け、再び山道を通ってこそこそ移動中。
 どこに神社があるかを探しつつ、魔物に殺されながら歩いていた。

「やっぱり、こっちは警戒網が機能してないな。戦争中だからってのもあるんだろうが、そもそも魔物が強いのか?」

《その分、本来ここでレベルを上げる民が多いのかと。成長したレベルと能力値を振るえば、子供であろうと大人を殺せます》

「……胸糞悪いけどな。それを言うなら、そもそもああいう職業も必要ないけど」

 俺の就くことができる【奴隷】や【虜囚】には、状態異常に罹っているときにしぶとく生きる能力が備わっている。

 だからこそ、隷属者に行動を強制しても大抵のことはできてしまう──可能になってしまうのだ。

「ああでも、こっちの世界でも大和魂があるなら別か。九州生まれの奴なら、理解できる思想なのかもな」

 突貫あるのみ、みたいな感じだったかな?
 まあそういうやり方を好んでいるのなら、俺から言うことは何もない。

 そろそろ南五州に到着する……戦争中の州はどうなっているのやら。


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