虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

五州戦線 その09



「ここが東五州……街並みに変化はないな」

 森から出て、こそこそと街に侵入した。
 そこは街から少し離れていたが……俺には魔力で動く原付きがあるので、サクッと街へ戻ることに成功する。

「ここにも『宣教師』が長期的な滞在とかはしていないのか? まあ、建築物に関わらないっていうなら話は別だが……」

《中央区──中五州の景観を俯瞰しているのですが、そちらは現在把握した北、東、西の州よりも高度な技術が用いられております》

「問題は南か……そこがもし中央と同じぐらい高度、または異なる技術だったら疑う必要があるわけだな」

《現在調査中です。旦那様には、人の目から見た考察を教えていただきたいです》

 スーパーAIである『SEBAS』だが、その本質は機械に詰まった情報の集合体だ。

 この世界での経験によって、『心』のようなものも確立しているだろうが……まだまだ完全とは言いがたい。

「……まあ、俺はそう思っていないけど。分かった、気になる点があったら伝える」

《ありがとうございます》

「──とは言ったものの、何をすればいいのやら。とりあえずは……情報収集かな?」

 というわけで、街の中を彷徨って情報を集めていく。
 そして買い物をするついでに、店員から訊ける限りの情報を手に入れた。

 ちなみに恰好は倭島なら着物を着ておけばどこでも問題ないので、家族の分のついでに作っておいた甚兵衛を羽織っている。

 そうして溶け込んだうえで情報収集に徹していたのだが……とある情報に、俺は興味を持った。

「──神社に迷宮が? それは、本来起きてしまうことなのでしょうか?」

「そんなはずないでしょう。ですから、すぐに迷宮を踏破してしまおうという派閥と、これは神の意思だから維持すべきだという派閥で揉めているのよ」

「……魔物は危険なのですか?」

「市井の臣に入ってくる情報なんて、そこまで詳しくは説明できないわ。ただ、最奥にはとても強そうな魔物が居て逃げ出してきた、なんてウワサが広まっているわね」

 教えてくれた店主には、感謝の意を籠めて商品を多めに買わせていただく。
 そうして集めた情報を、『SEBAS』に伝えて共有を行う。

「神社の迷宮化ねぇ……神を貶めるとか、そういう目的か?」

《迷宮となった神社は、迷宮をその神が生みだしていない場合、信仰の力を集めることができなくなります。迷宮は箱庭のようなモノなので、外界から遮断されるためです》

「となると、やっぱり集めたあの情報が正しかったみたいだな──信仰による闘争」

 五州が分かれた理由として、もっとも正しい気がする情報。
 それは、崇める神に違いが生じたことによる争いというものだった。


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