虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

五州戦線 その02



「と、止まれぇええええ!」

 頑張って声を張り上げているようだが、残念なことに俺は常に止まっている……心臓だけだが。

 鼓動が停止するたび、俺は無敵状態になって再び行動を開始する。
 それが異常な速度で繰り返されるため、常時無敵状態のように見えているだけだ。

「と、止まれ……■■■──“泥沼マッドスワンプ”!」

「おや、そのような魔法が……どのようにして覚えられたのですか?」

「な、なぜ動く!? 何も貴様に言うことなどない……■■■──“土槍ソイルランス”!」

「やはり異国の魔法、ですか。なぜこのような場所で、使われているのやら」

 EHO版の日本である倭島では、日本っぽい魔力運用技術が存在している。
 それこそ、『陰陽師』が式神を符という媒体を介して操るように。

 ……元居た大陸でたとえるなら、それはスクロールみたいな物だな。

「な、なぜ死なない……化け物め!」

「教えていただきたいのですが……ダメ、でしょうか?」

「ええい、皆の者! 早く、早くこの化け物に魔法を放つのだ!」

「……ふむ、魔法と分かっているのですね」

 未だに泥の沼に囚われている俺の下へ、彼らの詠唱した魔法が飛んでくる。
 火、水、風、土……そして金属らしき魔法が飛び交い、いっせいに俺を殺していく。

「五行ですか。魔法という技術を持ち込みながら、それを独自の体系としてアレンジしているのですね。なるほど……完全に模しているわけではないのか」

《旦那様、魔法の情報を記録いたしました》

「ご苦労様。前に見ておいたあっちの魔法と違いを調べておいてくれ」

《畏まりました》

 魔法、というのは名称だけかもしれない。
 そんなことを考えながら、そろそろ動くことを決断する。

 俺を拘束している泥だって、意識して拘束され続けているだけですぐに解除可能だ。
 グイッと歩を進めようとすれば、魔法が殺してくれるので無敵状態へ即座になる。

 そうしたらこっちのもの……俺の体は自由となり、再び前へ進み始めた。

「もう一度訊ねましょう……その魔法は、どなたから学んだのですか?」

「し、知らない! 本当に、本当に知らないことなんだ! す、すべてハセ様がどこからか持ち寄ったものなんだよ!」

「……ハセ様、とはこの軍を率いる総大将のことでしょうか?」

「そ、そうだ……」

 なんて情報を集めることに成功する。
 つまり、ソイツから訊きだせば、魔法を伝えた奴も分かるってことか。

 過去の文献から洗ったという可能性もあるのだが、なんとなく違う気がするんだよ。

 ──強者が絡んでいる、なぜかそんな気がして仕方がない。


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