虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

流動液体金属



「つ、ツクル様! ご、ご無事でしたか!」

 訪れたのは、この街の生産ギルド。
 それなりに人が居るのだが……ギルドカードを提示した途端、俺に気づき大声を上げる受付嬢。

「……ええ、まあ。始まりの街のギルドから生存報告はしたはずですが。あと、ここは公共の場ですよ」

「あっ……え、えっと、申し訳ありませんでした! で、ですが……その、迷宮に向かってからそのまま始まりの街へお戻りになられたので、何か問題でもあったのかと……」

「そういうことでしたか……それはこちらが悪かったかもしれません。心配をお掛けしてしまい、申し訳ありません」

 あたふたとしている受付嬢。
 さすがにこれ以上は外聞がなぁ……と感じたので、【刀王】との模擬戦でも使った真空化のアイテムを劣化させた物を使用する。

 効果は防音、周りに声が届かなくなり指定した対象にした言葉が伝わらなくなるのだ。
 ……物理法則が崩壊している気もするが、今さらなので気にしないでおく。

 とりあえず防音状態になったことで、いちいちこちらを気にするモノはいなくなった。
 ギルドとして、最初からそういう場所を用意してもらいたい……情報ギルドのように。

「──そろそろ、よろしいでしょうか?」

「! も、申し訳ありません! えっと……今回はどのような要件でしょうか?」

「まだ充分な量の高品質ポーションが足りていないと思いまして、いくつかご用意してきました。ただ、始まりの街の生産ギルドと契約がありまして……このように、配達としてですが」

 ギルド長によって手配された書状を渡し、ポーションをダース単位で並べていく。

 蘇生薬や万能薬といったチート級回復アイテムは無いが、それでも王族が使うとされるような品質のポーションである。

「こ、これは……」

「調べてもらっても構いませんよ?」

「……いえ、特級会員であらせられるツクル様を疑うことなどありません。すぐに報酬を用意させていただきます」

 本来、納品をした場合は金銭を持って支払われる……が、こちらの世界ではお金を持て余している俺は、ギルド長と契約を交わしてそちらも変更してもらっていた。

「生産ギルド内で保存されている、高難易度の生産に用いる触媒を御所望とのことでしたが……こちらがそのリストとなります」

「ありがとうございます…………あの、こちらの『流動液体金属』というのは?」

「こちらは錬金術師が人造の魔物を強化する際、用いられることが多い触媒です。動きを滑らかにし、物理攻撃の耐性を高めます。金属の硬性と液体の柔軟性を兼ね揃えた品なのですが……加工が非常に難しいのです」

「では、それを頂きましょう」

 気になった物を受け取るのが一番だろう。
 ちなみにレアアイテムではあるが、その額は蘇生薬や万能薬には遠く及ばない。

 ……金銭的にも、チートアイテムである。


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