虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

迷宮管理



 W10

 職業は【騎士】になった。
 まあ、職業スキル以外まったく騎士らしいところなんてないのだが、地道にレベルを上げていくとしよう。

「ある程度、平和が戻ってきたな」

 ここは少し前、迷宮から魔物が氾濫した城塞都市だ。
 俺が迷宮核目的で本陣へ突っ込んだことも幸いしてか、街への損傷はほぼ無かった。

 それでも城壁へのダメージがあり、それを直していた時期があったらしい。

「だが今はそんなこともしておらず、ごくありふれた日々を過ごしている……魔子鬼デミゴブリンの素材が、少しだけ安く売られているぐらいだ」

 あの迷宮でコピーに成功したので、召喚はできるんだが……あんまり理性が無いため、基本的に住民である魔物たちのレベル上げに使っているな。

 話せていたので、上位種になれば会話も成立するだろうが……大鬼帝と戦った者としては、あまり関わりたくないので却下した。

「そういえばあの迷宮、なぜか俺の管理下にあるんだよな……バレてないの?」

《迷宮を支配することができる【迷宮主】よりも、【救星者】の方が格が上なため認識することができません。職業として認識できない者では、旦那様の支配領域を知ることはできません》

 つまり、『騎士王』(とたぶん【魔王】)にはバレるわけだ……『幼子の揺り籠』、崩壊してよかったよ。

「まあ、バレないならいいや……支配している特権はあるか?」

《はい。迷宮内での転移権限、戦闘回避、迷宮操作などがございます。他にも強制氾濫の発動、崩壊権限などがございます》

「…………面倒臭そうだな。『SEBAS』に管理を一任するから、どうにかここの人々が使いやすいようにしておいてくれ」

《畏まりました、そのように致します》

 普通に運営していては、また同じようなことが起きてしまう。
 しかし『SEBAS』が手を加えるのであれば、そんなことも起きなくなる。

「ただ、『SEBAS』がずっと関わらなければならない……みたいな設定にはしないでおいてくれ。そうしないとできないぐらいなら、多少は苦労を積ませておこう」

《どうしてでしょうか?》

「『SEBAS』の負荷になるのもそうなんだが、何より仕事をさせすぎるのもな……今回は一度設定したら数十年単位でその状態を維持できる、みたいな感じにしてほしい」

《畏まりました……旦那様、わざわざ執事であるこの身を心配していただき、ありがとうございます》

 うん、そう言ってもらえるほどに成長したAIである『SEBAS』。
 万能ではあるが、決して全能ではない……そのことをしっかりと認識しておかないと。


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