虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
地下街迷宮 その12
最奥には珠が設置されていた。
何度も見た、不思議な色のソレは崩壊の一途を辿る迷宮の中であろうと変わらぬ輝きを放っている。
「……俺がやったことではあるが、もしかしたら普通に自壊していたかもな」
《もともとは旦那様のために用意された迷宮です。旦那様が踏破なされた以上、すでにそこに在る必要性は失われました》
「まあ、アジトの崩壊は王道だよな。別にアジトではないが……うん、それは別としてコピーをしたい。できるか?」
《……機材が用意できないため、実行できません。可能性があるとすれば、旦那様の職業がなんらかの影響を及ぼすことしか》
おそらく今回の迷宮踏破で、俺の職業に纏わりつくバグが完全に解除される。
その状態でも迷宮に干渉できていたので、もしかしたら……というわけか。
能力禁止空間の設定は、ぜひコピーしておきたかったんだがな。
こういう博打のような賭けは、ルリに任せておきたいものだ。
「さて、触れるとするか」
これまでの流れ的に、触れれば一気にログが流れてさまざまな欠如部分が解放されていくだろう。
もう一つの解放の流れの場合でも、だいたい起きる現象はいっしょだ。
「…………あっ、そっちだったかー」
どちらが発生するのか、俺には分からないガチャ感覚だったのだが……どうやら、今回は後者だったようだ──
◆ □ ◆ □ ◆
???
『おめでとうございます、あなたは私の神練に打ち勝ちました』
白色の球体がふわふわと漂う空間。
その球が告げる言葉には覚えがあるので、自然と会話を続けることができる。
ちなみに声色は女性のものだ。
とても朗らかで、聞く者に安心感のようなものを感じさせる。
「ありがとうございます。貴女様が試練を設けていただいた方なのでしょうか?」
《はい。友神である■■■に頼まれ、実行しました。コンセプトは肉体の限界突破、ですが……あなたの場合は少々異なりましたね》
「申し訳ありません。ですが、今回の迷宮でいくつか自身の問題点を見つめ直すことができました。これ以上ない経験でした……ありがとうございました」
《いえいえ、こちらも貴重な体験でしたよ。■■■が固執していたのも納得です》
固執、という単語が気になるものの、とりあえずスルーしておく。
そうしたことも含めて、今回の経験は与えられたモノなのだから。
「……そういえば、貴女様はいったい何を司る神様なのですか? あっ、もちろん答えは強要しているわけではございません」
《ふふっ、構いませんよ。わたしは医療の神です。メスを振るったり、病気用の回復ポーションを作製するあなたには実は感謝しているのですよ?》
「そうなのですか?」
《回復魔法が存在するので、医療が癒しと結びつかない世界ですので。あなたのような方が医療を人々に連想させることで、わたしにも得が回ってくるんですよ?》
そう言って笑う(イメージ)医療神様。
……うーん、なんだか複雑な気分である。
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