虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

地下街迷宮 その10



 もちろん、槍は全然当たらない。
 鏡面の複製体は凡人が振るう低速の槍捌きにバッチリ対応し、カウンターの一撃を叩き込んで殺し尽くしている。

 使徒はレベル固定なので強くなることはないと死神様から訊いたことがあるが、それでも相手もレベル以外のモノが成長していく。

「つまりは経験だな。うん、殺られれば殺られるほど不味くなっている気がするな」

 相手が体力や気力を消耗する相手だったならともかく、相手は使徒──人ならざる存在に、呼吸の心配など不要である。

 俺も俺で不要ではあるが、それは死ぬことでリセットしているからであって、完全に使わないというわけでもない。

 呼吸が乱れれば隙が生まれるし、筋肉が悲鳴を上げれば体は硬直する。
 そういった時を狙われ、サクッと殺されているのが現状だ。

「もっとストイックになったら倒すこともできるだろうけど……それ、ただの殺戮人形だしな。うん、やっぱり別の方向で考えよう」

 槍は[ストレージ]の中へ仕舞って、別のアイテムを取りだす。
 生みだされるのは劇毒、そしてその形状は不可避の霧。

「『万死の毒霧』。吸わずとも触れただけで死ぬはずなんだが……生きてるな」

 俺も当然死んでいるのだが、その速度が速すぎて言葉が繋がっているような錯覚をしてしまうほどだ。

 一方の鏡面体は[ストレージ]からドバドバとエリクサーを使っており、完全に無効化というわけではない。

 それでも粘っているのは素晴らしい。
 エリクサーを湯水のように使い潰すそのさまなど、ぜひ世界中で苦しむ人々に見せてやりたいよ……俺が悪人として扱われるな。

「時間の問題だな……って、やっぱりそうしてくるよな」

 魔法で吹き飛ばす、といった選択肢を取ることはできない。
 死の概念を魔法でなんとかする……それに必要な魔力が、尋常ではないからだ。

「だがまあ、策はあるよな──死そのもの以外が干渉してくるとかな」

 使徒の力によって、閉ざされた扉がほんの少しだけ開放される。
 死の理によって生成されたアイテムだが、それ以上に自然現象の理に従っていく。

 ──霧は気流に乗って、どこまでも飛んでいくだけだ。

「けどまあ、それで充分。隙を見せたな俺のコピーよ──『焦熱の死焔』」

 先ほどの霧によって、閉ざされた空間内の気体成分の比率は変更されていた。
 そして再び取り込んだ新鮮な空気……放った毒は『万死』。

「さあ、決着だ……二人仲良く温かい風を浴びようぜ」

 俺の仕組んだ通り、事は進展し──激しい爆発が俺たちを襲った。


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