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虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

地下街迷宮 その08



 それからも、創意工夫を凝らした迷宮を攻略していく……つもりだったのだが。

「思いのほか短かったな」

《全三階層。迷宮としてはあまり見ない階層の少なさです……しかし、『修練の間』から派生するように生まれた迷宮ですので、実際は六階層目でもあるのでしょう》

「別に迷宮の階層は維持費が掛かるだけで、多く造っても困るわけじゃないんだよな。考えられるのは二つ──ケチったか、もうすでに目的を達したか……たぶん後者だな」

 ドーンと配置された巨大な扉。
 なんだかレムリアでも見たのだが、主要な場所には必ず大きな扉を配置しておくのがどこかにおける常識なのだろうか?

「そういえば、武術はどうなっている?」

《はい。現在、旦那様の肉体に合わせた形で再現できるように調整中です。完了したモノはリストに載せてありますので、そちらを参考にしてください》

「どれどれ……って、この時点で多すぎるんだが。どの距離からでも戦えそうだな」

 送られたきた情報を[ログ]で確認してみると、武技の再現や冒険者たちのオリジナルの体捌きなどがリスト化されていた。

 たとえスキルや武技でなくとも、武人の域に達すれば何気ない動きで相手を倒すことができる……映画の定番である。

 なぜか、使用時の再現映像まで載っていたのだが──うん、かなり便利そうだった。

「最後はいったい何が待ち受けているんだろうな? 強大な魔物か、はたまた難解な問題か……いずれにせよ、可能な限りアイテムだけで乗り越えておきたい」

《では、私は旦那様のご活躍をお祈りいたしましょう》

「……なんか、就職に失敗したみたいだな。だがまあ、一度目は真に受けるものだ。張り切って逝くとしますか!」

 そして、俺は扉に触れ──凄まじい電流を浴びて死亡するのだった。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 いきなりの歓迎に天へ召されるような思いだったが、それでも正気を取り戻して再び開かれる扉へ意識を向ける。

「中には……鏡?」

 それはちょうど、人族を映しだすのに最適なサイズをした姿鏡だった。
 当然、鏡が映しだすのは部屋の中へ侵入した俺の姿なわけで……。

「あっ、嫌な予感がする」

 予感は最悪の形で的中する。
 鏡が一瞬輝くと、俺を映しだした虚像は動きを共にせず、独自の行動を取り始めた。

 具体的には──鏡の中からこちら側へ現れる……とかな。

「最後の相手は自分自身、まあなんとも王道な闘いだな。そうは思わないか?」

『…………』

「話せないタイプか。いや待てよ、こういうのって意外と無詠唱とか使いこなして最後は話すからな……油断大敵かもしれないな」

 つまりは慎重に倒すって方向で。
 さぁ、迷宮を突破しようじゃないか。


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