虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

地下街迷宮 その01



 暗躍街には迷宮ダンジョンが存在する。
 さすがはエンターテイメントを集めた場所と言えようか……神代において、迷宮とは娯楽の一種として捉えられていたようだ。

「ここが『修練の間』か……」

 暗躍街において中立領域に配置されたその迷宮は、道場のような建物の隣に併設された転送陣が設置された家屋から向かえる。

 ──そして今、そこには多くの冒険者が集まっていた。

「【奴隷王】曰く、新しい迷宮が繋がったらしい……繋がったってことはつまり、新しいのができたわけじゃない」

《横穴のようなモノが突如発生し、そこが迷宮と判断されました》

「判断、か……どういうことだ?」

《確認しました。迷宮だと思われる通路を、誰一人として通れていないのです》

 迷宮の下の方にあるため、確認するにも挑戦するにもまずは潜らなければならない。
 なので冒険者たちはそこへ向かうため、転送陣を求めて並んでいるのだ。

「『SEBAS』、迷宮の詳細を」

《畏まりました──『修練の間』は全五階層の迷宮で、各階層ごとに人族サイズの魔物たちが出現します。特徴的な点を挙げるのであれば──一階層から五階層の階段、そのすべて繋がっていることです》

「それに何の利点があるんだ?」

《二階層から四階層は近接・中距離・後方戦闘用の魔物がそれぞれ出現します。そして、必要のない距離での闘いは行わずともよいことになっているのです》

 一階層はパーティーや先生募集の階層、五階層は実戦として三種類すべてが出てくるようになるんだとか。

 そしてそのままボスを倒せば報酬を得て、無事帰還というわけだ。
 ……人造迷宮だからこそできる、レジャー感が満載である。

「俺には『SEBAS』という頼もしい執事が居るから問題ないな。それで、目的地である横穴はどこに?」

《五階層、ボスではなく魔物たちが現れる通常フィールドにございます。特別警戒されているわけではありませんので、向かうこと自体は簡単でしょう》

「……そうか、今は人がいっぱいだもんな」

《はい。時折プレイヤーが挑み、死ぬ姿を観て諦める者が現れますが……それでもまだ数は充分におります》

 入口で死ぬ迷宮とはいったい……。
 どうせすぐに行くので詳細は分かるのだろうが、それでも一つ言いたいことがある。

「間違いなく、厄介事だよな」

《はい、迷宮が人を迎えない理由はございません。人造迷宮であることを踏まえても、それは異常です……何かしらの干渉により、旦那様の活動範囲に手が加えられたのかと》

 ……つまり、それが神の試練──神練だったってことなのかもしれない。


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