虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

黒いリボン 前篇



「おっ、おほん。よく来たのぅ」

「ええ、本来であれば首輪の完成をした直後に来るのが礼儀であったというのに……このような日となってしまい、誠に申し訳ありませんでした」

「そ、そう……じゃな。たしかに、少々礼儀がなっておらんかったのぅ」

 やや顔の赤い【奴隷王】は、単独で俺を迎え入れてくれた。
 もちろん部屋の外で待機している者は居るが、中は俺と【奴隷王】の二人きりだ。

「首輪の製作、本当にありがとうございました。これはそのほんのお礼……とはまた別として、ぜひ【奴隷王】様に受け取っていただきたい品がございまして」

「ふむ…………ッ!? こ、これは!」

「お気に召していただけたでしょうか?」

「……ほぅ、ほぅほぅほーう! こ、これはぜひ試さねばならぬのぅ! うむ、首輪の譲渡に一悶着加えようと思っていたが、やはりそれは無しにしておこう!」

 とりあえず、ありがとうございますと伝えてペコリ。
 ヌルヌルの液体や特殊な蜘蛛の糸など、一部の者が喜びそうな物を揃えてみた。

 俺は確認していないが、『SEBAS』はそれを用意することを薦めてきたので間違っていないだろう。
 ……実際、目を輝かせているし。

「では、契約の品を」

「うむ……要望に応え、首輪の限界とやらに挑んでみたぞ。お蔭で、妾も新たなやり方を閃かせてもらったぞ」

「そうでしたか。何があったか、私には分かりませんが……幸いです」

 渡されたのは黒いリボンだ。
 誰がどう見ようとそれを隷属させるための道具には、決して見えないだろう。

「リボンですか……可愛らしいですね」

「じゃろう? お蔭で夜の捗りも……いや、なんでもない。見た目はこのようになってはいるが、性能は従来の物以上じゃ。少なくとも、妾と『超越者』以外には抵抗することはできないじゃろうな」

「あの、いったいなぜそのようなことに?」

「…………成長じゃな」

 何をして成長したか、それは訊かないでおくのが華かもしれない。
 だが【王】などを冠する職業であろうと、成長できることを知れたな。

「なるほど、これがですか……」

「……せ、『生者』、何をする気かのぅ?」

「一度試してみようかと」

「! なぜそうなるのじゃ! だ、だから着けるでない…………ああ、『生者』なのだから『超越者』であったな」

 心配してくれたようで何よりだが、俺もまた首輪が正常に機能するか心配していた。
 そのための実験……『SEBAS』が遠隔で殺してくれたので、首輪は機能しない。

「なるほど、死んでもなお外れないというのはよいですね」

「……初期状態では自我を奪うようになっているはずなのじゃが。大した精神力じゃな」

「『生者』に必要なモノの一つは、いつでも想いを表現することです。故に、このようなこともできるので」

 ……『生者』は関係ないけど。
 隷属は効かない理由があり、実際には通用すると『SEBAS』が教えてくれる。

 うん、とりあえず機能は調べられたな。


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