虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
連絡ランプ
「戻ってきてしまった……この雑居ビル」
精神力をごっそりと削いでくる試練の場。
本来なら、それこそ直通で目的地へ転移したかったのだが……そこまでの信頼と信用を勝ち得ていないので、大人しく歩いていく。
「せめて、出てくれますように……」
手に持っているのは小さなランプ。
それはこれから会う者に渡してある魔道具と連動しており、起動されることでこちらのランプに灯りが燈る。
そして今──ランプは光を灯していた。
「気づいてくれればいいが……」
ただ一方的に告げるようなシステムを構築するほど、俺は愚かではない。
念のためというか保険というか……相手から起動反応を受けた後のみ、連絡が取れるようにしておいた。
ランプの底に付けたスイッチを切り替え、通常モードから連絡モードへ。
いきなり声を出すと、怪しまれるかもしれないので……とりあえずノックをする。
『……むっ、なんじゃ? 『生者』が寄越した魔道具が音を──』
『ぁぁっ、お姉さまぁ! も、もっと激しくぅぅぅ!』
『……そうじゃな。『生者』よりも、今はお主との伽の方が重要じゃ』
『ぁぁ、有りがたき幸──』
この後何が行われるのか、なんとなく察したのでランプを停止させる。
ただまあ、『SEBAS』にいちおうの情報収集だけはさせておく。
「終わったら、改めてノック音を再現して鳴らしておいてくれ」
《畏まりました》
電話の声は、本人の声ではなくそれに似た音を擬似的に流しているだけだ。
それと同じ要領で、『SEBAS』が先ほどの音を流せばノックはできる。
……俺がやると、自動的にあちらの音声も届いてしまうからな
◆ □ ◆ □ ◆
「ようこそいらっしゃいやした!」
『いらっしゃいやした!』
「……は、はい」
あれからどうにか【奴隷王】に連絡が付いたので、向かうことを伝えた……そして、逃げられなかった結果がこれである。
強面な皆さま方による熱い歓迎を受け、俺の死亡数が増えるのと反比例するように精神値がゴリゴリ削られていく。
「頭から訊きましたぜ、あんたがあのウワサの新しいチャカを用意してくれたって。おいテメェら、恩人様にお礼を言うぞ!」
『ありがとうございました!』
「……いえ、お気になさらず。これはあくまで【奴隷王】様との契約を履行したまで。その使い方を咎めることもありませんので、存分に振るってください」
『はい!』
いい話のように纏めているが、まったく実の無い話である。
とりあえずこの場はそれで誤魔化し、さっさと【奴隷王】の居る部屋へ繋がる廊下へ向かって歩いていく。
……さっきの声の人、その場に居なきゃいいけど。
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