虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

転移技術 前篇



 アイプスル

「転移の精度もずいぶんと上がったな」

 ファンタジーの定番たる瞬間移動。
 これまでは座標を予め設定しておく──転位か、短距離の転移しかできなかった。

 だが、今回の可変式転移魔法陣を解析した結果……長距離であろうと、完全な転移をできるようになったのだ。

「ちなみにだが、遠距離の転移はどうやってイメージすればいい?」

《同世界内であれば、念じるだけで移動可能です。ただし、一度行った場所か視界内で無ければ補正が働かず転移できません》

「……ルゥラみたいな制限はしっかり残っているな。まあ、別に知らない場所へ行く予定はないから別にいいんだけど」

 そもそも、転位装置を用意して移動……という手間が省けるだけで、それ以外の変化は魔石の消費量ぐらいだ。

 人工魔石を使えばそれも解決できる俺からすれば、十個や二十個使う数が変わろうと、楽かどうかで使用するかを選べる。

「それじゃあ、さっそく試してみるか」

《どちらへ向かわれますか?》

「うーん……そろそろ納品に行っておきたいし、とりあえずあそこだな」

 イメージするだけで移動が可能なら、わざわざ手順を踏まずとも良いだろう。
 ただし、行き過ぎると犯罪になるので……とりあえず、入り口だな。

「それじゃあ、転──」

  ◆   □   ◆   □   ◆

 冒険世界

「──移! ……あっ、着いた」

 目の前にドーンと建っているのは、俺がこちらの世界へ向かう際に強くイメージした場所──生産ギルドである。

「声を出していたし、中でやったら間違いなく不審な目で見られていたんだろうな……念のため外でやって正解だった」

 ちなみに、『SEBAS』によると自動回避システム搭載らしい。

 過去、転移で死亡事故があったらしく、魔法陣も最初からそれを防止できるように回避の術式が刻まれているんだとか。

 ……逆に言えば、その防止システムを解除すれば立派な攻撃にできそうだな。
 なんてことを考えつつも、平然とした顔に整えてからギルドの中へ入る。

「すみません、納品ですが……」

「いつもお疲れ様です。こちらへ」

「はい──少し遅れていた分と、早期の納入分として三十六ダースです」

 休人は便利な[インベントリ]を持っているので、どれだけ持ち込んでもまったく違和感を持たれない。

 三十六ダース──つまり四百三十二本ものポーションをギルドへ提出すると、こくりと頷いた受付嬢はそれを魔法陣へ乗せる。

「依頼完了です。しかし、あまり遅れないようにしてくださいね」

「ははっ、申し訳ありません。ああ、それでですが何か普通の依頼を──」

「ギルド長がお呼びです。ツクル様、すぐにそちらへ向かってください」

「……はい」

 俺が『依頼』という単語を出すと、どの受付嬢も冷たくなる……そういう反応をされるくらい、何度も言っていたからだよな。


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