虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

霊体の問題 その18



「──というわけで、親玉を連れて来ましたよ。また、巻き込まれた者たちと戦犯は別で送り届けてあります……これで、依頼は達成ですね」

 改めて【幽王】城内に入り、謁見する。
 だが俺の言葉に意識を向けていないこの場の者たちは、俺のすぐ傍──四角い箱状の物に囚われた者を見ていた。

「クソぉ……出せ、とっとと出しやがれ!」

「この魔道具『蔽塞の小箱』は対象を箱の中に閉じ込めます。抗うことはできません、内部から攻撃を放つこともできませんので……このような搬送の仕方でも構いませんよ」

 最後に男に向けて放った箱型のアイテムとは、これのことだったのだ。
 耐久度が低ければ、すぐ破壊されてしまうのだが……そこは上手く加工済みである。

「本当に無力化できるなんて……ご苦労様」

「ハッ、ありがたきお言──」

「おい、クソガキ! まだ【幽王】の座に就いてやがったのか! とっとと降りてくれれば、最初からこんなことになることもなかったのによぉ!」

「……まだ、固執していたのね」

 なんだか同情の目を向けている【幽王】。
 そこには敵に向けるものではない、何かの想いが籠められているのかもしれない。

「お父様の代から支えてくれていた貴方が、いったいなぜこんなことをしたのかしら。未だにわたしには……貴方が力のためだけに、玉座を得ようとしたようには思えないの」

「うるせぇ! 俺は、俺のためだけにこれをやっただけだ!」

「そう……なら、わたしも【幽王】としての決断をしなければならないわね」

 スッと片手を上げる【幽王】。
 控えていた幽魔たちは武器を構え、箱にそれを突きつけ……ようとして、箱が持つ防御機構システムによって弾かれた。

「『生者』、これが再び開くのは?」

「さぁ、分かりません」

「……ハッ?」

「解除方法はシンプル、中の者が自ら望んで死ぬことのみ。それ以外の方法はまだ試したことがございません。ああ、外部からの干渉は通用しませんので。餓死か自殺するのを待つしかありませんね」

 嘘ではない、だが本当でも無い。
 その気になれば開けることはできるだろうし、殺すのもそれなりに手間は掛かるがすぐに実行できる。

 それを行わないのは──【幽王】がそれを望んでいないからだ。

「どうでしょうか、しばらくの間は幽閉しておくということで。この箱からの脱出は決してできません、それはこの私『生者』が名に誓いましょう」

「……そう。今回わたしの意思が通ったのはあなたのお蔭。なら、その意見を取り入れることにしましょう──約束は果たすわ。詳細はまた後日に。今はまた……やるべきことができたわ」

 そう言って、【幽王】はこの場から去っていった。
 小さく、声に出さないように……口を動かしてから。

『──ありがとう、助けてくれて』


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