虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

霊体の問題 その16



「時間切れです……非常に残念ですが、これより五分間で考えを変えられた方は、すぐに申し出てください。古来より、武を競うことで行うという──『交渉(物理)』を最後の手段として行いますので」

 俺が指を鳴らした瞬間、天から光が降り注いでいく。
 冷酷無慈悲に霊魔一体一体のすぐ傍を通過したソレは、ドローンによって放たれた。

「牽制の一発、次は外しませんよ。ただしこちらへ向かうのであれば、攻撃であろうと降服であろうと同じことを致しません」

 要するに、同じ方向に進ませるわけだ。
 相手の代表者も、すでに選択肢を失っている──怒号と共に、彼らは動きだす。

「いらっしゃいませ、あなたがこの軍勢の主でございますか?」

「……よくも、やってくれたな!」

「さて、なんのことだが……」

 俺自身は確認していなかった親玉。
 人形がその情報をこっそり伝えてきたので分かったが……まあ、四天王のパワー担当みたいな男型の幽魔である。

 逃走者を捕まえようと動いたのだろう、ドローンによる迎撃を受けたのか体の一部にダメージ痕が残っていた。

「俺様の計画を……いったい、どれだけの時間を掛けていると思っていやがる!」

「さて……二年でしょうか?」

「九百年だ! お前は、それだけの時間を一瞬で無駄にしやがった!」

「なんと……なんとも長い日々でしたね」

 なるほど、見た目からして三十代だったのだが……最盛期の肉体を維持したまま長期間生きられる種族なのか。

 まあ、地球の神話でも亡霊は長い時を生きることができる。
 いずれ『冥王』とその世界の住民に、年などを訊いてみるのもいいかもしれないな。

「ですが、私が介錯を致します。野望は潰えて平和が訪れることでしょう。おめでとうございます、貴方はこの素晴らしき日を生みだすための礎に選ばれました」

「──死ね」

「ストレートなお言葉、大変結構。では、改めて名乗りましょうか」

 男は沸点を超えて逆に冷静になったのか、真顔で接近し──俺を上下に真っ二つする軌道で武器を振るった。

 本来であれば、武人であろうと抵抗するのは困難な鋭い一撃。
 この光景を観る誰もが男の勝利を疑わないだろう──だが、それでも俺は口を動かす。

「私の名は『生者』」

「なっ……!?」

「生と死の狭間を渡り、死を超越する者。生に執着し、理すらも捻じ伏せる者。たとえ貴方がどれだけ強者であろうと、同じ場所まで上がれないままでは……絶対に勝てません」

 体を通過する武器。
 だが俺は平然と立ち、一瞬だけ発光したあとは元通りの姿を保っている。

 それだけで理解できるだろう──俺を殺さなければその先には進めないと。


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