虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

霊体の問題 その12



『残り十五分となりました』

 タイマー係となった人形が、定刻となったことを告げた。
 その言葉は静寂に包まれていたこの場において、よく響き渡る。

 ──予想通り、まだ誰も来ていないのだ。

 分かってはいたさ。
 一度目にこれこれこうすると言っただけで受け入れてくれるほど、交渉とは簡単ではない……それができるのは、それだけの価値を認識されている存在だけだ。

 そういうものを持たないモノは、粘り強く交渉し続けるしかない。
 メリットを挙げ、実例を提示し、信頼と信用を勝ち得る……俺の経験はそうだった。

「さて、というわけでまずはメリットを提示しようか──拡声器を」

『こちらです』

「ああ、ありがとう」

 さすがに数回の会話で変化はない。
 当然のことながら、『SEBAS』ならもしや……と思わせるのが怖いところだ。

 まあ、このタイミングでウィントに富んだジョークを言われても困るけどさ。


「──さぁ、残り時間もあと十五分となりました。ここで、皆さまがこちらへ来やすいようにメリットを提示いたしましょう」


 クレームは聞こえてこない。
 彼らも理解したのだ、どれだけ口を動かそうと今の状況に変化が無いことを。

 故に彼らは決意した──その行動を示すべきだと。

「ちょうどゲストも来たところです、彼らとのお話をご覧いただきましょう……あなたが大将、というわけでもないでしょうが、まずは挨拶を──『生者』と申します」

「ふっ、名乗る名など存在せぬ。『生者』とやら、旧【幽王】に与することを止めて元の世界へ帰るがよい。今すぐであれば、見逃してやらんこともないぞ」

 どこからともなく現れたのは、黒い霧のようなモノに包まれた一人の半透明な男だ。
 ただし、他の幽魔や霊魔たちは誰も姿を現していない……彼だけがここに来た。

「旧、ですか……申し訳ありませんが、それにはお応えできません。私は契約は確実に実行することをモットーとしていますので、貴方がたの鎮圧は確定した未来でございます」

「そうかそうか……やはりこうなってしまったか。ふはははっ、仕方がないな!」

「交渉決裂、ですか……。ええ、本当に仕方有りません。先ほどの続き、メリットの提示と行きましょう!」

「お、おい、無視を……ッ!?」

 再び拡声器を握り締めた俺に、手を伸ばそうと……して、人形に阻まれる男。
 妨害込みでここに来たんだろうが……運の尽きだったな。

 人形は:DIY:製の改良型なので、そのすべてがこの世界のモノに干渉可能。
 そして、兵装は俺が手作りした少々やりすぎたものばかり──邪魔できるはずがない。


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