虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
霊体の問題 その07
前回、ウサギ型の幽魔を一匹討伐した。
それを解析した『SEBAS』によって、幽魔の情報はいくつか判明している。
要するに幽魔とは、肉体の情報をすべて霊核に宿した霊体というわけだ。
だからこそ、彼らは別世界の魔物と同じような姿を模っている。
──霊体である幽魔が、魔物たちと変わらない形をしている必要は無い。
陸に上がった魚がエラやヒレを不必要なモノとして進化を遂げたように、肉体というしがらみによって必用とされた器官をわざわざ生みだす必要もないのだ。
「そこが歪な点だよな。そもそも霊体だが浮遊している様子もないし、重力を感じているような動きをしていた。……ああ、そういう法則が働いているってことか」
《おそらくは。そもそも、霊体の干渉そのものが旦那様の考える物理法則とは異なっております。冒険世界のソレとも違う、まったく別の理を以って動いているのでしょう》
「ふーん、別のルールか……けどそうか。この世界の奴らにとって、それこそが当たり前の常識だ。むしろ外を知らない奴なら、別の世界のルールなんて信じられないか」
かつて天動説と地動説という、地球の在り方について揉めていた時期があったらしい。
それは地球を外側から観ることができない時期だったからこそ、答えが出るまでに死人が出たほどだ。
だが、月に住んでいる存在が居るのであれば、そんな答えとっくの昔から当たり前の情報として把握しているだろう。
「……って、それはどうでもいいか。結局幽魔はどうやって倒せばいいんだ?」
《霊核の破壊がもっとも確実ですが、それでは彼らが活用することができません。通常の魔物同様、霊体に干渉さえできれば魂魄値を減らすことで討伐が可能です》
「そこも変わらないのか……まあ、魔力があるからな。そういえば、魔法はちゃんと当たるのか?」
《はい。人形で検証したところ、魔力を扱うのであればどのような方法であれ魂魄値に干渉することが確認されております》
要するに、魔力を籠めて殴ればそれだけでダメージを与えられるわけだ。
俺も魔力だけならばそれなりにある……ただ、それを賢く運用できないだけで。
魔法スキルをいっさい持っていない、というか鑑定と:DIY:以外スキルを正式な形で所有していないからな。
代わりに持っているのは『超越者:死神』による、生死に関する称号の多重発動。
この世界だと、先ほどのルール完全無視で魔力が無かろうとダメージを与えられる。
──そんなこんなで、討伐を行おう。
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