虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
卵孵化 後篇
いつの間にやら『真・世界樹』の周りに、この世界に住まう者たちが集まってきた。
海洋生物はさすがに来れなかったものの、陸に住んでいる者たちは全員集合だ。
ゲストとしてコミたち物ノ怪もこちらに来ており、奇跡的瞬間を拝もうとしている。
「さて、もうすぐだな」
最初は熱源をサーモカメラで調べようとしていたのだが、魔力の膜がそれを阻んでいたためそれは分からなかった。
しかし魔力の量が少しずつ減っていくのが判明したため、それが無くなったときに割れるのだと悟る。
魔物たちは本能で、人型のヤツらも魔力感知でそれを知ることが可能だ。
俺は無理だがゆっくりと高まっていく死の警鐘によって、擬似的に知ることができる。
「──来たぞ!」
『…………ッ!』
魔力による保護が失われ、中に居る者が内側から殻を破っていく。
ピシピシとその状況は音で知ることが可能で、ゴクリと皆が唾を嚥下している。
「──クキュッ!」
そして、殻が破られた。
中から現れたのは……なんだろうか?
「『SEBAS』、あれをなんと例えていいか俺には分からないんだが……」
《おそらくはさまざまな動物の特徴を兼ね揃えているのでしょう。合成獣、そう例えるのが宜しいかと》
「キマイラか……まあ、そうだな」
毛皮の色は赤……まあ、獣の神は肌色ではなく赤色とする場所もあるらしい。
その時点で自然界的に淘汰されそうな色ではあるが、問題はそこではない。
虎と獅子でライガーとかそういうレベルではなく、犬と猫すらも混ざり合うような……異形とも呼べるその姿。
しかしそこに嫌悪感などは無く、神がもたらした造形なのか愛くるしさを生まれた瞬間から周りに振り撒いている。
「クキュー?」
辺りをキョロキョロと見渡すキマイラ。
俺は真・世界樹の巨大な洞に入ると、そこで屈んでキマイラと目を合わせる。
「生まれてきてくれてありがとう。初めまして、俺はこの世界の主であるツクルだ」
「クキュー!」
「ああ、よろしくお願いする。──それと紹介しよう……あれが、お前の家族になるヤツらだぞ」
少し離れると、洞の外で歓声を上げるこの世界の住民たちを紹介する。
誰一人として忌避感などは持たず、ただ新たな生命に祝福をもたらしていく。
「ああ、そうだ。君に名前を付けてもいいかな? それを以って、この世界の住民になれるんだが……」
「クキュー!」
「そうか、なら決めよう。……うーん、君の名前はそうだな──」
──俺の与えた名前に、その子はとても嬉しそうに鳴いてくれた。
さて、情報を伝えよう……このモフモフはよいモフモフである。
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