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虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

帰国祭り その07



 祭りは間もなく幕を閉じる。
 夜になるとイルミネーションを魔力で再現した物が辺りを飾り、暗い街並みを明るく照らしていた。

 さすがに花火は上がらないものの、お祭り夜の部とも言える盛り上がりを見せている。

「そして、再び繁盛繁盛っと……できた、これも持っていってくれ」

 ちょうど近くを通りがかった人形にタコ焼きの山を渡し、分配したのちに客の下へ届けてもらう。

 やはり酒にはタコ焼きが合う……味も多様なので客が飽きることはないしな。

「──よし、一先ず休憩だぁ……」

 一定数作っておけば、あとは人形たちが自動的に売り捌いてくれる。
 俺がやらなければならないのは、ストックの補給だけだ。

 それを行う必要が無くなった今、俺は自由となり活動を行う。
 屋台には人形を追加で一体配置し、俺は外へ出てうーんと背伸びをする。

「何か飲み物あったかな? ……ああ、前に作ったミックスジュースがあったか」

 アイプスル産の果物を絞った果汁100%のジュースだった。
 酒にはあまり強くないので、ジュースを酒代わりにしてタコ焼きをつまみに飲食する。

「──いっしょにどうですか?」

「あれ、いいの?」

「ええ、こちらは私の趣味で作った物ですのでお代は要りませんよ。それよりも、ありのままの感想が頂きたいですね」

「なら、そうさせてもらうね」

 現れたテーリアに木でできた器を渡し、そこにジュースを流し込む。
 匂いをたしかめ、それからゴクリと喉に入れ──カッと目を見開いた。

「なにこれ、すごくおいしい!」

「そういってもらえると、こちらも作った甲斐があるというものですよ」

「こんな味、知らないよ。いったい何を使えばこういう味になるのさ」

「秘密ですよ。それよりも……タコ焼きは気に入っていただけましたか?」

 ジュースの魅力に憑りつかれかけていたものの、ハッとした表情をしたのちに頬を叩き意識を取り戻すテーリア。

 別に危ない物は入れていないんだが……やはり、:DIY:を使うと危険なのか。

「う、うん。お姉さまといっしょにいただいたよ。まさか、まだあんなにいろんな味が出るなんて……驚きだったよ」

「私の故郷ではタコを入れずともタコ焼きと名乗り、異なる具材を入れている地域もありましたからね。少し邪道でしたが、これもサプライズということで」

「あっははははっ! そうだね、サプライズだね……うんうん、それは実にイイよ!」

「満足していただけましたか?」

 ヒーヒーと、腹が捩れているのかと思えるほどに笑い転げるテーリア。
 しばらく待って落ち着いたところで、改めてその問いをした。

「ああ、うん。すごいすごい、本当にすごいよ。派手なことは戦闘にしかないと思っていたけど、こういうことでも面白いことはたくさんあるんだね」

 どこからともなく杖を取りだし握ると、軽く一振りして宙に浮く。

「そろそろ帰らないと。お姉さまに内緒で会いに来たけど……やっぱりバレちゃってた」

「残念ですね……いずれ別の立場として会いに行かせてもらうかもしれませんが、そのときはぜひご贔屓に」

「うん、そうさせてもらうよ──じゃあね、『生者』さん!」

 テーリアはそういって、この場から去っていく……向かう先はこの国の中心だ。

「やっぱり『超越者』ではなかったか。だけどその名を知っている……やれやれ、また面倒事が増えた気がする」

 とりあえず、しばらくの間は身を潜めておこう……わざわざ別の大陸まで追いかけようとは、思わないだろうしな。


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